会社経営
「採用活動」で使える助成金! 早期再就職支援等助成金な
ど4種類を紹介
2025.06.11
1 採用活動を強力にサポートする助成金を使いこなす!
最新の主要調査によると、2024年の中途採用費用(年間平均)は650.6万円です。これは前年(2023年:629.7万円)より20.9万円の増加となっています(社員数3名以上の会社を対象とした、マイナビ「中途採用状況調査2025年版(2024年実績)」)。人手不足を背景に、中途採用に力を入れている企業が多いことが伺えます。
一方、中小企業などでは
「採用活動にそこまでお金をかけられない」と、積極的に取り組めずにいる会社
が少なくありません。そもそも採用活動に割けるリソースが限られる上に、入社した社員がすぐに辞めてしまうことも多い昨今、慎重にならざるを得ないのは無理からぬことです。
しかし、諦めないでください。
採用活動をサポートするための助成金を上手に活用し、採用コストに充当すること
でこの問題を打開できる可能性があります。国や自治体が実施する助成金の中には、一定の条件に該当する社員を雇い入れたり、訓練したりすることで受給できるものがあります。
この記事では、
採用活動に関する中小企業向けの助成金を4つ紹介
します。支給額や要件などの情報に加え、専門家のワンポイントアドバイスも載せています。なお、助成金の内容は、2025年5月16日時点のもので将来変更される可能性があります。また、申請書の書き方や添付書類等については、各章で紹介しているURLをご参照ください。
2 早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース)
1)早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース)とは?
会社都合などでやむを得ず離職した社員を、離職日の翌日から3カ月以内に無期雇用社員(週20時間以上勤務)として採用し、かつ給与を5%以上アップさせ、6カ月を超えて継続雇用すると、助成金を受け取れる制度です。
■厚生労働省「早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000082805.html
2)助成金を受け取るには?
次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。
【会社側の要件】
- 対象者を、離職日の翌日から3カ月以内に、雇用保険被保険者となる無期雇用社員(週の所定労働時間が20時間以上)として雇用する
- 採用時に、社員の所定内賃金を離職前よりも5%以上アップさせる
- 採用後、6カ月を超えて雇用する
- 採用日の前後6カ月間に、解雇や雇止めを行っていない
【社員側の要件】
- 再就職援助計画の対象者」「求職活動支援書の対象者」「雇用保険の特定受給資格者」のいずれかである(主に倒産や事業縮小など会社都合で離職した人が該当)
3)受け取れる金額はいくら?
雇い入れにかかった費用の一部を定額で受給(早期雇入れ支援)できます。生産指標等により一定の成長性が認められる会社は、「優遇助成」が受けられます。

4)専門家のワンポイントアドバイス
離職から3カ月以内に社員を雇用するという要件があるので、タイミングを意識して採用計画を立てることが重要です。また、訓練を実施して人材育成支援を受ける場合は、訓練前に「職業訓練計画」を立てて都道府県労働局の認定を受ける必要がある点に注意が必要です。
3 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
1)特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)とは?
60歳以上の高年齢者や障害者など、就職が特に困難とされる人材を社員として雇い入れた場合、所定の金額(定額)を受け取れるというものです。
■厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/tokutei_konnan.html
2)助成金を受け取るには?
次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。
【会社側の要件】
- ハローワーク等からの紹介により、対象者を所定労働時間が週20時間以上の雇用保険被保険者として雇用すること
- 雇入れ日の前後6カ月間に解雇等を行っていないこと
【社員側の要件】
- 「高年齢者(60歳以上の者)」「身体・知的・精神障害者」「母子家庭の母等」「ウクライナ避難民」「補完的保護対象者」といった、就職が困難とされる者であること
有期雇用社員の場合は、契約が「自動更新」であることを契約書に明記し、労働者が希望する限り更新可能であること(更新条件は就業規則の解雇要件以内)、かつ65歳以上まで継続して2年以上(一部は3年以上)雇用することが確実である必要があります。
3)受け取れる金額はいくら?
対象社員に支払われた賃金の一部に相当する額として、次の金額が支給対象期(6カ月)ごとに定額で(ただし、対象期に支払われた賃金額を上限として)支給されます。なお、「短時間労働者」とは、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満である者をいいます。

また、「成長分野等人材確保・育成コース」では、未経験者の訓練や賃金引き上げなどの育成施策を実施した場合に、上記の助成額の1.5倍が受給可能です。2024年10月1日より要件が緩和され、より利用しやすくなっています。

■特定求職者雇用開発助成金「成長分野等人材確保・育成コース」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/tokutei_seichou_00008.html
4)専門家のワンポイントアドバイス
特定就職困難者コースは、ハローワーク等からの紹介により人材を雇用することが必須の要件です。そのため、求人を出す際は事前にハローワークに求人票を提出し、「助成金対象となる人材を雇用したい」とはっきり伝えておくことが重要です。
また、有期雇用での採用の場合は「自動更新」であることの記載漏れや、就業規則の解雇条件を超えた条件を設けると助成金が受け取れません。雇用契約書や就業規則をよく確認し、適切な条件で雇用契約を結ぶよう注意しましょう。
4 特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)
1)特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)とは?
「就職氷河期世代(おおむね1993年~2004年ごろに就職活動を行っていた人)」で、で、正規雇用の機会を逃したことや、非正規雇用や子育てによる離職などにより正社員としてのキャリア形成が難しかった人を、正社員として雇用する場合に助成金が支給される制度です。
■厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158169_00001.html
2)助成金を受け取るには?
次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。
【会社側の要件】
- ハローワークまたは一定の要件を満たす民間職業紹介事業者から紹介された対象者を、正社員(期間の定めがなく、所定労働時間が週30時間以上、かつ昇給・賞与・退職金など長期雇用を前提とした待遇のある雇用)として雇い入れること
【社員側の要件(次の全ての要件を満たす必要あり)】
- 1968年4月2日から1988年4月1日の間に生まれている
- 雇入れ前の過去5年間において、正社員として雇用された期間が通算1年以下である
- 雇入れ前の過去1年間において、正社員として雇用されたことがない(ただし、過去1年以内に会社都合の解雇等により離職した場合は対象になる)
- ハローワーク等の紹介の時点で「失業中」または「非正規雇用労働者など安定した職業に就いていない状態」であり、ハローワーク等で就労に向けた支援を受けている
- 正社員として雇用されることを自ら希望している
3)受け取れる金額はいくら?
対象社員に支払われた賃金の一部に相当する額として、次の金額が支給対象期(6カ月)ごとに定額で支給されます。ただし、支給対象期ごとに対象社員に支払った賃金額が図表4の額を下回る場合、その賃金額が支給額の上限となります。

さらに、就職氷河期世代の未経験者を雇い入れ、職業訓練や賃金引上げなどの人材育成に取り組んだ場合、通常の1.5倍の助成が受けられる「成長分野等人材確保・育成コース」の対象にもなります。
4)専門家のワンポイントアドバイス
本助成金は「ハローワーク等からの紹介」が必須条件です。求人時にその点を明記し、採用ルートが助成金の要件に合致するかを必ず確認しましょう。また、非正規雇用期間が長い方や離職期間が長かった方が対象となるため、入社後のOJTやOFF-JTなどの人材育成を丁寧に実施することで、社員の早期戦力化と定着を促進できます。
5 トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)
1)トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)とは?
職業経験の不足やスキル不足等により就職に不安がある方を「トライアル雇用(試行雇用)」として一定期間雇用した場合に助成金が支給される制度です。原則として3カ月間の試用期間中に対象者の適性を確認し、期間終了後に無期雇用契約(正社員等)へ移行することを目的としています。

■厚生労働省「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/newpage_16286.html
2)助成金を受け取るには?
次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。
【会社側の要件】
- ハローワークまたは一定の要件を満たす民間職業紹介事業者から紹介された対象者を雇い入れること
- 対象者を、有期雇用契約で所定労働時間が週30時間以上(日雇労働者などの場合は週20時間以上)の雇用保険被保険者として、原則3カ月間トライアル雇用すること
- トライアル雇用終了後、無期雇用契約(所定労働時間が週30時間以上)への転換を前提としていること
【社員側の要件(次のいずれかの要件を満たす必要あり)】
- 紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
- 紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている
- 妊娠、出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した職業に就いていない期間が1年を超えている
- 紹介日時点で60歳未満であり、ハローワーク等で担当者制の個別支援を受けている
- 就職援助に特別な配慮が必要な者に該当する(母子家庭の母等、父子家庭の父、生活保護受給者など)
3)受け取れる金額はいくら?
対象者1人につき、月額4万円(母子家庭の母等または父子家庭の父の場合、月額5万円)が最大3カ月分支給されます。トライアル期間中に雇用期間が1カ月未満の月があった場合や、社員の都合による休暇、会社都合による休業等が発生した場合は、その月について以下の計算式により助成額が調整されます。
実際に就労した日数÷就労予定日数

また、トライアル雇用終了後に対象社員を無期雇用として継続雇用する場合、特定求職者雇用開発助成金の対象にもなり得ます。
4)専門家のワンポイントアドバイス
トライアル雇用を開始してから2週間以内に、対象社員を紹介したハローワーク等に「トライアル雇用実施計画書」を提出し、必ず認定を受ける必要があります。これを怠ると助成金が受け取れないため注意しましょう。
また、助成金の申請はトライアル雇用終了後の無期雇用契約移行後2カ月以内に行う必要があります。トライアル期間中の社員の適性確認や能力評価は丁寧に実施し、無期雇用契約への円滑な移行と社員の定着を図りましょう。
以上(2025年6月更新)
【著者紹介】
三原明日香(みはら あすか)
東京都葛飾区在住の社会保険労務士。長年行政からの委託で町工場の調査やレポート記事を執筆してきた経験を活かし、小規模な製造業中心にサポートしている。フリーライターとしても15年以上活動中。