名言

飯田亮「企業はつぶれるからいいんだと思う…」/経営のヒ
ントとなる言葉

2018.05.01

    「企業はつぶれるからいいんだと思う。経営に失敗しても救済されるというのでは緊迫感がない」(*)

    出所:「心に響く名経営者の言葉 決断力と先見力を高める」(PHP研究所)

 冒頭の言葉は、

「経営者は、常に背水の陣の緊迫感を持って経営に当たらなくてはならない」

ということを表しています。

 大学卒業後、実家の酒類問屋で働きつつ、独立を考えて新たなビジネスを模索していた飯田氏は、あるとき「欧州では警備を仕事としている企業がある」ことを耳にしました。当時、日本にそのような企業はまだなかったため、飯田氏は警備業というビジネスに大きな将来性を感じ、1962年にセコムを設立しました。

 しかし、飯田氏の意気込みに反して設立当初は困難の連続でした。飯田氏は、警備をアウトソーシングするメリットを説いて回りましたが、なかなか受け入れてもらえません。当時は、企業が直接警備員を雇用するか、社員が当直を行うことが多かったため、警備をアウトソーシングすることに抵抗を感じる顧客が多かったようです。また、セコムでは前金制を採用していましたが、このことも顧客の理解を得ることを困難にしていました。

 地道な営業を続ける飯田氏に転機が訪れたのは1964年のことでした。この年に開催された東京五輪で、セコムは選手村や競技施設の警備を請け負うことに成功したのです。これがマスコミでも取り上げられたことや、翌年の1965年には、同社をモデルにガードマンを題材としたテレビドラマが大ヒットしたことから、セコムの知名度は大きく向上しました。

 その一方で、飯田氏は機械警備への転換を構想し、1966年に日本初となるオンライン安全システム「SPアラーム」を発売したのです。SPアラームは、管制室で契約先を遠隔監視し、異常が発生した際には警備員が急行するという新しい警備の仕組みであり、飯田氏はその将来性を大いに感じていました。

 ところが、SPアラームの契約件数は長い間伸び悩みました。この状況に悩んだ末、飯田氏は大きな決断をしました。それは、「今後は、SPアラームに注力する」というものです。SPアラームと比べた場合、巡回警備はなじみがあるため契約を取りやすいのは事実です。しかし、飯田氏は、「今後、セコムが成長していくためには、SPアラームによる機械警備が必須である」と考え、熟慮の末にあえて退路を断ったのです。この決断により、セコムの社員は、巡回警備を契約していた顧客にはSPアラームへの切り替えを、常駐警備は値上げを依頼するという、大変困難な営業が課されました。実際、顧客からの反発は多く、中には契約を解除されるケースもありました。しかし、この難局を乗り越えた結果、SPアラームの契約件数は伸びていき、現在のセコムにおけるオンラインセキュリティーシステムの基盤を築くことができました。

 飯田氏が独立してセコムを設立しようと決断した際、飯田氏の父親は大反対しました。そして、セコムの経営が軌道に乗るまで実家の酒類問屋にも在籍することを飯田氏に勧めました。しかし、飯田氏は次のように考えて、父親のアドバイスには従いませんでした。

「二股かけていては新しい事業に打ち込むことができない。背水の陣を敷く必要があると思ったからだ」(**)

 仕事において、飯田氏は「まともに努力し、汗水を流し、困難という泥水をたらふく飲むことによってこそ、人は育つ」と述べています。

 険しい道を選んで退路を断てば、歯を食いしばってでもその道を進むしかなくなります。そうした厳しい環境にあえて自分を置くことで、困難を乗り越えるための強い力がみなぎってきます。しかも、経営者は自分のためだけに戦っているわけではありません。決して裏切ってはならない顧客、守るべき従業員やその家族がいます。そうした関係者のことを思う優しさと、自らの信念を貫く強さが経営者には求められています。

本文脚注

本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。

経歴

いいだまこと(1933~)。東京都生まれ。学習院大学卒。1962年、日本警備保障株式会社(現セコム株式会社。本稿では「セコム」)設立。

参考文献

(*)「心に響く名経営者の言葉 決断力と先見力を高める」(ビジネス哲学研究会(編著)、PHP研究所、2008年7月)
(**)「正しさを貫く 私の考える仕事と経営」(飯田亮、PHPファクトリー・パブリッシング、2007年10月)
「『大企業病』と闘うトップたち」(大塚英樹、講談社、2001年8月)


以上(2014年10月更新)

執筆者

日本情報マート

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