名言
ピーター・F・ドラッカー「出生率の急増や急減は、20年
後までは…」/経営のヒントとなる言葉
2018.12.01
「出生率の急増や急減は、20年後までは労働人口の大きさに影響をもたらさない。だが変化はすでに起こった。戦争や飢饉や疫病でもないかぎり結果は必ず出てくる。」(*)
出所:「創造する経営者」(ダイヤモンド社)
冒頭の言葉は、
「さまざまな変化や出来事を注意深く観察し、分析することで、未来を予測し、新たなビジネスチャンスの芽を見いだすことができる」
ということを表しています。
企業の将来像を描きつつ、経営のかじ取りを行っていくことは経営者の大切な役割のひとつです。しかし、描き出す企業の将来像の前提となる未来をどう予測するのかというのは難しい問題です。ドラッカー氏も、未来について私たちが知っていることは、「未来は知りえない」「未来は、今日存在するものとも今日予測するものとも違う」という2つのことだと述べ、その予測の困難さを指摘しています。
しかしその一方で、ドラッカー氏は、未来について考えるためのヒントを示しています。その一つが、「すでに起こった未来」という視点です。例えば、今年生まれた子どもたちは、特殊な事情が発生しない限り、20年後には「20歳」という年齢層の市場を構成することになります。すなわち、20年後の20歳という年齢層の市場を占めるおおよその人口は、今の時点で知ることができるのです。
このように、社会的、経済的、文化的な出来事と、それがもたらす影響との間にはタイムラグがあることがあります。これがドラッカー氏の言う「すでに起こった未来」です。ドラッカー氏は、すでに起こった未来は、体系的に見つけることができるとし、調べるべき領域は、こうした「人口構造」に加えて、「知識」(学術的な知識などの進歩など)、「ほかの産業、ほかの国、ほかの市場」(ほかの産業・国・市場の動向など)「産業構造」(産業構造の変化など)、「企業の内部」(新たな活動によって発生した企業内部の摩擦など)の5つを挙げています。
これらの領域に見られる出来事は、すぐに市場に大きな変化をもたらすものではないかもしれませんが、いずれ市場に大きな影響を与える可能性があるのです。
ドラッカー氏は、このほかにも、経営者が未来について考える際のヒントを、さまざまな観点から述べています。例えば、次の言葉も、経営者が未来について考える上での示唆を与えてくれます。
「ほとんどあらゆる組織にとって、もっとも重要な情報は、顧客ではなく非顧客(ノンカスタマー)についてのものである。変化が起こるのはノンカスタマーの世界である。」(**)
ドラッカー氏は、この例として米国のデパート業界を挙げています。米国のデパート業界では、1980年代までは、小売市場において28%という抜きん出たシェアを誇っており、その顧客に関してはよく知っていました。しかし、72%を占めるノンカスタマーについては情報を持たず、新しく登場した消費者層、特に豊かな新しい世代がデパートに来ていないことには関心を持っていませんでした。その後、1980年代が終わりに近づく頃には、こうしたノンカスタマーが買い物動向を左右する層になったものの、自分たちの顧客ばかりを見ていたデパートはそうした変化に気付かず、厳しい状況に直面したと指摘しています。
ドラッカー氏のこの言葉は、既存顧客に比べると軽視されがちなノンカスタマーの動向に注目を払うことで、未来について考える際のヒントを得ることができる可能性があることを示唆しているものといえるでしょう。
ドラッカー氏の2つの言葉は、たとえ現在の延長線上とは全く異なる未来であっても、それは突然訪れるものではなく、それに先立って何らかの“予兆”があるということを教えてくれています。経営者は、ドラッカー氏が示唆する点などを参考にしながら、“予兆”を捉えて未来について考えること、そしてそこに潜むビジネスチャンスの芽を見いだしつつ、企業の将来像を描くことが求められるのです。
本文脚注
本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を担保するものではありません。また、本文中では内容に即した肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思われるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。
経歴
ピーター・F・ドラッカー(1909~2005)。オーストリア生まれ。フランクフルト大学卒。1950年、ニューヨーク大学教授就任。1971年、クレアモント大学院大学教授就任。
参考文献
(*)「創造する経営者」
(P・F・ドラッカー(著)、上田惇生(訳)、ダイヤモンド社、2006年11月)
(**)「ネクスト・ソサエティ 歴史が見たことのない未来がはじまる」
(P・F・ドラッカー(著)、上田惇生(訳)、ダイヤモンド社、2002年5月)
以上(2014年1月作成)