人材
無断欠勤、ハラスメント…「問題社員」への正しい対応
2020.08.21
書いてあること
- 主な読者:
- 問題社員に対し、懲戒処分などの厳しい対応を検討したい経営者
- 課題:
- 必要以上に重い処分を与えることで、逆に訴訟などのトラブルに発展する恐れがある
- 解決策:
- 問題社員の行動を「就業時間内の問題行動」と「プライベートでの問題行動」に分けた上で、裁判例などから「どの程度までの処分なら妥当といえるのか」を知る
1 就業時間内の問題行動への対応
1)基本的な考え方
企業の管理下にある就業時間内の問題行動は、懲戒処分の対象になり得ます。ただし、社員を懲戒処分にするには、まず就業規則等において、懲戒の対象となる事由と懲戒処分の種類が定められている必要があります(フジ興産事件 最高裁第二小平成15年10月10日判決)。
次に、懲戒処分の対象とされた社員の行為が就業規則等の懲戒事由に該当し、懲戒処分に「客観的に合理的な理由」(合理性)があると認められることが必要です。
さらに、対象となる問題行為に対する懲戒処分が重くなり過ぎないようにすること(相当性)や、懲戒処分を行う際のプロセスにも留意しなければなりません。
この点を踏まえて対処しないと、逆に問題社員から懲戒処分は権利濫用であると訴えられて、企業が敗訴することもあります。
2)業務命令違反、業務命令無視
業務命令違反や業務命令無視の場合、事案の程度によっては解雇まで認められます。ただし、いきなり減給やさらに重い解雇などの処分をするのは得策ではなく、まずは繰り返し文書やメールなどで注意することや、けん責や戒告などの軽度の懲戒処分にすることが重要です。
企業として、問題社員に対し、業務命令違反や業務命令無視を問題視していることを明確に伝えるとともに、釈明や挽回の機会も与えます。これらの一連の流れは、書面に残しておくことが大切です(このことは、業務命令違反などに限らず、他の事案についても同様です)。
それでも社員の態度が改善されず、繰り返し、職場環境や人間関係に悪影響を及ぼすようならば、最終的に就業規則違反として懲戒解雇も検討します。ただし、この場合も懲戒解雇ではなく、普通解雇または諭旨解雇にとどめたほうが無難なケースがあります。
3)再三の無断欠勤
社員が1~2日の無断欠勤を繰り返す場合は、事案に対する懲戒処分の相当性を考慮すると、けん責や戒告などの軽い処分が妥当です。ただし、けん責や戒告の後も改善が見られない場合は、重い懲戒処分にすることになるでしょう。
また、1~2日の無断欠勤を繰り返すのではなく、2週間連続して無断欠勤するような場合は状況が変わります。多くの企業は就業規則において「2週間連続の無断欠勤の場合は懲戒解雇とする」と定めています。2週間の無断欠勤について懲戒解雇を有効とする裁判例があります(開隆堂出版事件 東京地裁平成12年10月27日判決)。
ただし、無断欠勤している社員がメンタルヘルス不調を抱えている場合は注意しましょう。メンタルヘルス不調で無断欠勤した社員に対し、企業が健康診断の実施などの適切な処置を行わなかったため、諭旨解雇が無効とされた裁判例があります(日本ヒューレット・パッカード事件 最高裁第二小平成24年4月27日判決)。
実務上は、無断欠勤が続く社員の身元保証人や家族と連絡を取りながら、対応を判断します。また、休職制度を設けている場合は就業規則にのっとり、その間の様子を見て、それでも状態が良化しなければ退職させるといった配慮をします。
4)就業時間内の怠業
就業時間内に、社員が隠れて休憩したり、居眠りをしたり、パソコンを私的利用したりすることは怠業に当たります。
隠れての休憩、居眠りなどの場合は、当初は口頭での注意にとどめ、その後も改善が見られない場合にけん責・戒告の対象とするのが妥当です。ただし、処分に当たっては「長時間労働が常態化していないか」など社員の就業環境も考慮する必要があります。
また、パソコンの私的利用については、仕事中のブログやオンライントレード、ネットオークションなどの場合はけん責・戒告の対象となるでしょう。
私的なメールなどの場合は、当初は口頭での注意にとどめ、その後も改善が見られなければ、けん責・戒告の対象とするのが妥当です。メールの回数が1日2通程度など、業務に支障がない範囲であれば、職務専念義務違反にならないとした裁判例があります(グレイワールドワイド事件 東京地裁平成15年9月22日判決)。
一方で、メールなどの回数が異常だったり、内容が企業の信用失墜に関わる重大な事案であったりする場合は、より重い処分を検討します。1日300回以上のチャットを行い、チャットを使って顧客情報の持ち出しなどを行った社員に対する懲戒解雇を有効とした裁判例があります(ドリームエクスチェンジ事件 東京地裁平成28年12月28日判決)。
5)セクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ」)
セクハラに対する懲戒処分は、けん責・戒告処分から懲戒解雇まで幅広くあります。セクハラは、刑法に抵触するもの(強制わいせつ罪(刑法第176条)、名誉毀損罪(同法230条)、侮辱罪(同法231条)など)だけではありません。迷惑防止条例に抵触するもの(服の上から臀部(でんぶ)を触るなど)、男女雇用機会均等法に抵触するもの(性的言動やしつこく食事に誘うなど)、企業秩序の観点から健全な職務遂行が損なわれる恐れのあるもの(「おばさん・女の子・○○ちゃん」などと呼ぶなど)まで広範囲にわたります。
個別の事案によって異なり得ますので一概には区分できませんが、大まかに処分内容を当てはめるとすれば、刑法に抵触するレベルでは懲戒解雇、迷惑防止条例違反にとどまるレベルでは出勤停止・減給、けん責・戒告、健全な職務遂行が損なわれる恐れのあるレベルでは口頭注意・指導といった処分が考えられます。
6)パワー・ハラスメント(以下「パワハラ」)
パワハラについては、指導や叱責との境目が分かりにくいため、判断が難しいというケースが少なくありません。そのため、実務上では、行為者の意識・意図や反復継続性、侵害された権利や利益の程度も加味して判断する必要があります。
国家公務員の処分基準を参考にしたパワハラの懲戒処分の目安としては、「暴言のみであれば、けん責・戒告か減給」まで、「暴行まで至った場合は、減給から出勤停止まで」が相当となるでしょう。もちろん、パワハラの結果、相手方がメンタル疾患になったり自殺したりした場合は、企業自体が相手方から使用者責任(民法第715条)を問われる可能性があることから、懲戒処分は重くなります。
2 プライベートでの問題行動への対応
1)基本的な考え方
企業は原則として、就業規則等によって、社員のプライベートでの行動を規制することはできません。ただし、過去に最高裁判所は「職場外での職務遂行に関係がない行為であっても、企業秩序に直接の関連を有するものもあり、それが規制の対象となることも許される」という判断をしています(国鉄中国支社事件 最高裁第一小昭和49年2月28日判決)。
例えば、飲酒運転の場合、人身事故により報道などで社名が出て信用が失墜した場合や、社員がドライバーなど自動車運転を行う業務に従事しており、行政処分によって運転ができなくなった(業務が遂行できなくなった)ことから懲戒処分を行ったのであれば、企業側の主張が認められる可能性が出てきます。
しかし、このような要因がないにもかかわらず、飲酒運転で人身事故を起こしたからといって懲戒処分を行うと、懲戒権の濫用と見なされる場合があります。これは、企業が社員のプライベートな時間の行為について処分する権限が限られていることを意味します。この点を踏まえて、ケースごとの企業の対応を紹介していきます。
2)飲酒運転
プライベートな時間内における飲酒運転による事故が、企業の懲戒権行使の対象になるとは限らないため、飲酒運転を一律で懲戒解雇にする対応は好ましくありません。企業として懲戒処分に処すべきか否かについては慎重な判断が必要です。判断基準となる項目としては、例えば、次のようなものがあります。
1.アルコール濃度はどの程度か
前日のアルコールが抜けきっていないのと、飲んだ直後に運転するのとでは、事の軽重が異なります。
2.報道などで社名が出るなど企業が特定されたか
社名が出ていない、または企業が特定されていない状況であれば、社員個人の影響にとどまるため、企業が懲戒処分を行う理由が立ちにくくなります。
3.重大な事故となったか
事故の程度(人身事故になったかなど)や、企業の信用失墜などの面も検討して、懲戒処分の程度を決定する必要があります。
4.社員の事前の経歴、事後の行動
その社員に前科前歴等があったのか、特にこれまで同種の事案で刑事事件となったことがあるかも重要です。また、事件後にすぐに職場に報告したのか、それとも職場に対して隠蔽しようとしたのかといった社員の言動も懲戒処分に処すべきかどうかの判断ポイントとなります。
5.企業の主たる業務が自動車運転によるものか
自動車運転を業としていながら、道路交通法を軽視する姿勢は、企業の信用失墜につながる恐れがあり、ひいては経営を揺るがしかねません。一方で、これまで当該社員が企業の主たる業務における自動車運転で一切事故を起こしていなければ、社員にとって有利な事情となります。
6.自動車を運転することが当該社員の職務内容か
免停などの行政処分で自動車を運転できなくなれば、業務に重大な影響を及ぼすため、その観点から社員にとって不利な事情となります。
3)非行
非行の内容はさまざまですが、例えば傷害(相手にけがを負わせた場合)、薬物使用で考えてみましょう。これらの非行については、職務時間外のことであっても、企業の社会的責任の観点から、懲戒処分が有効とされることがあります。
ただし、傷害事件を起こしても、その後に被害者との間で示談が成立しているのであれば懲戒解雇は難しい面があります。示談の内容にもよりますが、通常、被害者との間で示談が成立しているということは、その社員から被害者に対して被害を賠償しており、被害者側も積極的な処罰を望まないということになり、当該社員にとって有利に働く事情だからです。
また、こうしたケースで懲戒解雇の有効・無効を争う場合、企業側に十分な手持ちの証拠がない場合が多いため(あっても新聞記事程度)、これらの事案が企業の信用失墜に至ることを証明するのが難しい面もあるので、解雇の判断は慎重に行うべきです。
4)服装や身だしなみ
社員の服装や身だしなみは、経営上の必要性から合理的な規律を定めた場合に限り規制することができ、社員はそれに従う義務を負います。一例を挙げれば、ディズニーリゾートは、キャスト(社員)の服装や身だしなみについて、ディズニーのイメージと接客サービスの観点から、「ディズニールック」という規律を定めています。
具体的には、髪は規定内の色とし、一定の長さの場合は後ろに束ねるかまとめ上げるといった細部まで決められています。これは、ディズニーのイメージを守り、サービスを提供するという観点から認められるものですが、その他の全てのサービス業が同様の規律を定められるわけではありません。社員がそうした服装をしている背景、企業理念、これまでの慣行などを総合的に勘案する必要があるからです。
一般的には、接客業の場合は「客に不快感を与えない」程度の規制しかできず、個別具体的に規制すると、合理的な制限と認められないこともあります。例えば「ひげが整っていて不快感を生じさせないのに、そることを一律で義務付ける」ような場合は、過度な規制に当たると判断される可能性があります。
5)近隣住民とのトラブル
犯罪に該当しない近隣住民とのトラブルについては、懲戒処分の対象外と考えて差し支えないでしょう(企業の信用失墜を招いた場合などは別です)。これは、企業が管理する社宅で起こしたトラブルについても同様です。企業の管理施設下である社宅でのトラブルについては、社員のプライベートな時間であるため、企業が介入することはできないとされています。
ただし、社宅の利用や施設に影響を及ぼすトラブルであれば、事前に社宅利用規程などに決めておくことで、その範囲内で対応は可能です。とはいえ、懲戒処分は限定的になるでしょう。
以上(2020年8月更新)
(監修 弁護士 田島直明)