業界動向

中小企業も要注目! 取引先から選ばれる条件「脱炭素経営
」してますか?

2026.04.14

1 「脱炭素」を経営の中心に据える

 「GX(グリーン・トランスフォーメーション)とか、脱炭素って言うけれど、うちのような中小企業には関係ないのでは?」。もしそう思ったなら、それは危うい考えかもしれません。製造業や建設業を中心に、「脱炭素経営」は単なる環境貢献ではなく、「取引先として選ばれるための絶対条件」へと変わってきているからです。

 現在、大手メーカーやゼネコン(発注元)は、自社だけの温室効果ガス排出量削減だけでなく、サプライチェーン全体(Scope 3)での削減を強く求められています。つまり、取引先である皆さんが「脱炭素に取り組んでいない」という事実は、発注元にとって見過ごすことのできない「リスク」となってしまうのです。

 逆に言えば、いち早く「脱炭素経営」に向けてかじを切ることは、競合他社に対する優位性につながります。「あの会社に頼めば、我々のCO2排出量も減らせる」。そう思わせることが、今後の受注を勝ち取る最強の営業ツールにもなり得るのです。

 中小企業の経営者の皆さんが今すぐ行うべきなのは、脱炭素を「コスト」としてではなく、「受注を守り、生き残るための投資」と再定義することです。

 この記事では、「何をやればよいか分からない」「投資に回せるほど余裕はない」と悩む経営者の皆さんに、国や自治体の支援施策をうまく利用しながら、いかにしてこの厳しい状況をチャンスに変えるか、経済産業省(資源エネルギー庁)が主導する事業者向けの支援施策を中心に具体的な道筋を解説します。

2 出費を抑え、支援施策を戦略的に活用する「3ステップ」

 「『脱炭素』の重要性は分かるけれど、具体的にどうすれば?」というのが本音でしょう。だからこそ、国や自治体の支援施策を戦略的に活用する次の3ステップをおすすめします。

1)まずは「見える化」で現状を把握

 まずは自社の「エネルギー使用量」や「CO2排出量」がどれくらいなのか、基礎データを「見える化」することから始めます。中心的な役割を果たすのが「省エネ診断」です。「省エネ診断」は、専門家が無料で現場を訪れ、どの設備がエネルギーを浪費しているか、どこをどうすれば消費電力を抑えられるかなどを数値化してくれる支援施策です。

 足元では、前年度に続いて、省エネルギーセンターが、令和8年度「中小企業等エネルギー利用最適化推進事業費(エネルギー利用最適化診断等事業)」の補助事業者として採択されました。詳しくは令和8年度予算の成立後になりますが、省エネルギーセンターのウェブサイトを通じて発信される最新情報をチェックし、申し込みのタイミングを逃さないようにしましょう。

■省エネルギーセンター■
https://www.eccj.or.jp/

■省エネルギーセンター「省エネ・節電ポータルサイト」■
https://www.shindan-net.jp/

 なお、令和7年度補正予算案では、省エネ診断後の改善提案の実現に向けて、ソリューションを提供する企業(リース会社、メーカー、金融機関、省エネ診断機関など)と中小企業をつなぐマッチングプラットフォームを創設するとされています。こうした動きにも注目です。

2)ステップ2:補助金を活用し、設備を「最新鋭」に

 省エネ診断結果に基づき、老朽化したコンプレッサー、ボイラー、工作機械、あるいは現場の照明(LED)などを更新するとき、重要なのが「補助金」の活用です。ここでは2つの補助金を紹介します。

1.省エネ・非化石転換補助金

 「省エネ・非化石転換補助金」は、エネルギーコスト高対応と、カーボンニュートラルに向けた対応を同時に進めていくための、企業の投資を後押しするものです。

 令和7年度補正予算案では、従来の4つの類型(工場全体の省エネ(I)、製造プロセスの電化・燃料転換(II)、リストから選択する機器への更新(III)、エネルギーマネジメントシステムの導入(IV))に加え、「GX III類型」を創設するとされています。

 GX III類型は、次のように「メーカー強化枠」と「トップ性能枠」の2つの枠組みがあります。

  • メーカー強化枠:従来のIII類型補助対象設備のうち、次期GXリーグ(注)への参加、企業の成長に対する今後の方針を定めるといった「GX要件」にコミットするメーカーが製造する設備について、これまでの予算枠とは別枠で、上限額等を増額した上で、支援するものです。
  • トップ性能枠:従来の省エネ水準を大きく超える省エネ性能を有する設備について、設備更新における補助率を強化するとともに、これまで支援対象ではなかった新設についても補助対象とするものです。

(注)GXリーグ(https://gx-league.go.jp/)は、2050年のカーボンニュートラル実現と社会変革を見据えて、GXへの挑戦を行い、現在および未来社会における持続的な成長の実現を目指す企業が、同様の取り組みを行う企業群や官・学と共に協働する場です。

 令和7年度補正予算による補助の詳細は、環境共創イニシアチブのウェブサイトを通じて発信される最新情報をチェックしましょう。

■令和7年度補正予算 省エネ・非化石転換補助金(工場・事業場型)■
https://sii.or.jp/koujou07r/

■令和7年度補正予算 省エネ・非化石転換補助金(設備単位型)■
https://sii.or.jp/setsubi07r/

2.新事業進出・ものづくり補助金

 「新事業進出・ものづくり補助金」は、従前は別々だった「新事業進出補助金」と「ものづくり補助金」を統合し、2026年度からスタートする補助金です。

 GXに資する革新的な製品・サービスの開発や既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出、海外市場開拓(輸出)に向けた国内の輸出体制の強化に係る設備投資等を支援するもので、新たな製造プロセスの導入など、攻めの投資に対して手厚い補助があります。

 なお、「新事業進出・ものづくり補助金」は、「ものづくり商業サービス省力化・革新的開発・新事業・海外展開促進事業」の一環として中小企業基盤整備機構が運営を担います。

 これらの補助金を活用できれば、出費を抑えて最新鋭の設備が手に入り、さらに毎月の電気代・燃料費も削減できるという「二重のメリット」を最終的に得られるかもしれません。

3)ステップ3:優遇税制で収益を確保

 企業の脱炭素投資を後押しするため、生産工程を効率化するなどの炭素生産性を向上させる設備を導入するときに活用できるのが「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」です。令和8年度税制改正大綱(2025年12月26日閣議決定)で、炭素生産性の向上率の基準が引き上げられるとともに、適用期限が2年間延長されました。

 2028年3月31日までに産業競争力強化法のエネルギー利用環境負荷低減事業適応計画の認定を受け、その認定を受けた日から同日以後3年を経過する日まで、計画認定制度に基づく生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備の導入に対して、最大10%の税額控除(中小企業者等の場合)または30%の特別償却が受けられます。

 また、特定大企業がサプライチェーン上の中小企業のCO2排出削減を支援した場合、従来通りの向上率基準を適用するなどの配慮も盛り込まれています。

3 なぜ急に「脱炭素経営」が求められるようになってきたのか?

 背景にあるのは、2023年に施行された「GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)」です。これにより、日本全体で、今後10年間で150兆円を超える官民投資が動き出しました。

 2026年4月施行の「改正GX推進法」では、CO2の直接排出量が一定規模以上の事業者に対して、排出量取引制度への参加が義務付けられるなど、発注元やサプライチェーンの川上の企業を中心に「脱炭素経営」が以前にも増して注目されるようになっています。

1)サプライチェーンの「選別」が始まっている

 自動車産業や建設業界では、既に主要メーカーが取引先に「2030年までに○%削減」という具体的な数値目標を提示し始めています。対応できない企業は、たとえ技術力が高くても、将来的なサプライチェーンから外されるリスクに迫られることが現実のものとなっています。

2)「カーボンプライシング」の足音

 2028年度からは、化石燃料に対して課金される仕組み(化石燃料賦課金)が本格化します。これは、対応が遅れると、電気代や燃料代という形で「罰金のようなコスト」を払い続けなければならなくなることを意味します。早めに脱炭素化を済ませておくことは、将来的な固定費の増加を防ぐ「攻めの防御策」となります。

4 「脱炭素経営」は合理的な経営戦略

脱炭素経営は、単なる「お作法」ではありません。「最新設備を、補助金を利用して導入し、ランニングコストを下げ、取引先からの信頼を勝ち取る」という、極めて合理的な経営戦略です。

 中東情勢の緊迫化による原油価格高騰、エネルギー価格の不安定化に対応する意味でも「おカネがないからできない」のではなく、「おカネを引っ張ってくるために、脱炭素を旗印にする」。この発想の転換がカギです。

 補助金の申請は整えるべき書類も多く、確かに複雑です。しかし、最近は商工会議所や金融機関、さらには設備を納入するメーカーが申請サポートを行ってくれるケースも増えています。一人で悩まず、「補助金を使って更新したい」と周囲に相談することから始めてください。

 小規模な建設・製造現場でも効果はあります。特に製造業のコンプレッサー更新や、建設業の重機・車両の電動化(ハイブリッド化)は、目に見えて燃料費が変わります。また、昨今の求人難において「環境意識の高い会社」というイメージは、若手人材の採用においてもプラスに働くでしょう。

以上(2026年4月作成)

執筆者

日本情報マート

中小企業の頼れる情報源として、経営者の意思決定をサポートするコンテンツを配信。「開業収支」「業界動向」「朝礼スピーチ」など2000本を超えるコンテンツを有するほか、年間200件以上の市場調査も行っている。現在、50を超える金融機関に情報提供を行っている。