会社経営

使いやすくなったIT導入補助金のポイント

2019.06.01

1 企業のIT活用を支援するIT導入補助金

 業務効率化の手段としてIT活用が広がる中、中小企業を支援する補助金事業である「サービス等生産性向上IT導入支援事業」(以下「IT導入補助金」)への関心が集まっています。これはソフトウエアやクラウドサービスなどを導入する際の障壁となる高額な費用の一部を補助するもので、ITツールによる中小企業の生産性向上を促進させることを目的としています。

 IT導入補助金の今年度(平成30年度補正)の予算総額は100億円で、補助金の上限額は昨年度の50万円から450万円に増額しており、補助件数は約6000件を予定しております。

 本稿では中小企業がIT導入補助金を上手に活用するための考え方や、ITツールやITツールを提供するITベンダーの選び方などを紹介します。なお、本稿で紹介するIT導入補助金の概要は、2019年5月17日時点の情報に基づきます。一部の公開情報は未公開になっているため、応募を検討する際は最新の情報をご確認ください。

2 IT導入補助金の概要

1)自社の現状を把握することが前提

 同事業では、中小企業・小規模事業者などが自社の強みや弱みを認識した上で、IT導入支援事業者の提案を受けて検討したITツールを導入します。この補助金を活用するポイントは、自社の強みを生かしたり、弱みを改善したりできるチャンスであると理解することです。

 なおIT導入支援事業者とは、中小企業などに対し、ITツールの説明や導入支援、運用のサポートなどを実施する事業者を指します。事業を運営するサービス等生産性向上IT導入支援事業事務局などによる審査を経て採択された事業者で、申請や実績報告などを中小企業と共同で行い、代理で申請もします。

2)補助金の額と補助率

 補助金の上限額と下限額は、補助対象となるソフトウエアが備える機能の範囲によって異なります。「A類型」と「B類型」の2種類があり(詳しくは後述します)、A類型の場合、上限額は150万円、下限額は40万円で、B類型の場合、上限額は450万円、下限額は150万円です。補助率は両類型とも2分の1以下です。

3)IT導入補助金の公募スケジュール

 IT導入補助金の公募期間は一次公募と二次公募に分かれています。それぞれの公募スケジュールは次の通りです。

4)IT導入支援事業者のサポート

 IT導入支援事業者は、中小企業にITツールを販売するだけではなく、以下のような役割を担います。

  • 中小企業の生産性の向上に資するITツールを事務局に登録
  • 補助事業を進めようとする申請者(中小企業)に対し、適切なITツールの提案・導入・アフターサポートを実施
  • 補助事業に関する申請者からの問い合わせ、疑問などについて、事務局に代わって対応を行い、円滑な事業推進のサポートを実施
  • 事務局から申請者への指示や指導の媒介者となり、適切な補助事業の遂行をサポート
  • 導入されるITツールにより、申請者の生産性の向上効果を最大限引き出すことを支援

 中小企業は、このようなIT導入支援事業者をIT導入補助金のウェブサイトで調べ、自社が求める要件に合うIT導入支援事業者を探し出すことが可能です。ITツールの選定はもちろん、申請から交付決定後のスケジュールなどをIT導入支援事業者と相談し、申請に備えて事前に準備しておくようにします。

3 申請までの流れと申請前の準備

1)申請完了までの流れ

 IT導入補助金を利用する中小企業は、IT導入支援事業者と連携して手続きを進めることになります。申請フローは次の通りです。

 中小企業は、申請に必要な各種情報を登録する「申請マイページ」を開設する必要があり、申請マイページはIT導入支援事業者が中小企業を招待することによって開設されます。なお、開設時には代表者の氏名や申請者本人のメールアドレスを登録するなどの条件があります。開設時の内容に事実と異なる点があると、交付が取り消されることもあるので注意が必要です。

2)中小企業が申請前にすべきこと

 中小企業はIT導入補助金を申請する前に、次の3つの手続きをし、取得した情報やアカウントを、申請マイページを通じて事務局に提出します。

1.経営診断ツールでの診断

 事務局が無償提供する「経営診断ツール」を使い、財務情報を入力したり事業計画に関する設問に回答したりします。従業員数や決算月、売上高、営業利益などを入力する他、自社の強みや弱み、年間のIT投資額、取り組むべき課題や改善点などに答えます。

2.SECURITY ACTIONへの宣言

 情報処理推進機構(IPA)が実施する「SECURITY ACTION」というセキュリティー対策に取り組んでいることを宣言します。5つの対策に取り組むことを宣言する「1つ星」か、セキュリティー診断の実施とセキュリティーポリシーを外部公開する「2つ星」のどちらかを宣言する必要があります。

 手続きをするには、申し込みフォームから企業情報やどちらの星に該当する取り組みをしているのかなどを入力します。IT導入補助金申請時には、SECURITY ACTION申し込み時に発行されたアカウントを登録する必要があります。

3.IT導入支援事業者の選定・ITツールの選択

 IT導入補助金のウェブサイトから、経営診断の結果に即したIT導入支援事業者とITツールを探します。営業エリアや業種、機能などを選択して、IT導入支援事業者やITツールを絞り込むことができます。

4 申請時の注意点

1)契約のタイミングと注意点

 IT導入補助金を利用する場合、補助金の交付が決定する前にITツールを発注したり契約したりすると、その費用は対象外となります。交付決定後、IT導入支援事業者とITツールを購入する契約を結び、導入する必要があります。

 なお、交付決定前に見積もりを取るのは問題ありません。交付決定後に、IT導入支援事業者からの見積書や発注書、支払ったことが分かる銀行振込受領書や領収書などが必要となりますが、見積書に記載する日付は交付決定前のもので構いません。

2)申請準備期間

 申請するに当たり、IT導入支援事業者にどんなITツールを導入すべきか、導入に伴う費用はいくらかなどを確認します。ITツールの選定などに時間がかかることも考えられるため、導入すべきITツールを絞れずにいる場合、十分な準備期間を設けておくのが望ましいでしょう。

 なお、補助金交付の採否は交付決定日に通知されます。早く申請したとしても交付決定日前に通知されることはありません。

5 対象となるITツールの注意点

1)ITツールがカバーする業務範囲

 IT導入補助金の対象となるITツールは、IT導入支援事業者が登録したものに限られ、「ソフトウエア」「オプション」「役務」の3つに区分されます(図表3)。

 A類型で申請する場合、「ソフトウエア」内の「業務パッケージソフトウエア」から最低1つ以上の項目(機能の範囲)を選択し、「効率化パッケージソフトウエア」「汎用パッケージソフトウエア」を含めた「ソフトウエア」から2つ以上の項目が含まれるITツールを導入する必要があります。

 B類型で申請する場合、「ソフトウエア」内の「業務パッケージソフトウエア」から最低3つ以上の項目を選択し、「効率化パッケージソフトウエア」「汎用パッケージソフトウエア」を含めた「ソフトウエア」から5つ以上の項目が含まれるITツールを導入する必要があります。

 なお両類型とも、複数のITツールを組み合わせて要件を満たしても構いません。

2)クラウドサービスの種類

 IT導入補助金の対象となるクラウドサービスは、ソフトウエア機能を提供する「SaaS」に限ります。ハードウエアのリソースを提供する「IaaS」や開発環境を提供する「PaaS」の利用料などは対象外です。

 なお、補助対象となるクラウドサービスの機能を拡張するアドオン製品や、別のクラウドサービスやソフトウエアとデータをやり取りする連携ソフトウエアの導入費などは、図表3の「オプション」に該当し、これらも対象となります。

3)ウェブサイトの利用料

 新規のウェブサイトを制作する場合に限り、発生した費用が対象となります(図表3の「オプション」に該当)。CMS(コンテンツ管理システム)の利用料やEC(電子商取引)向け機能の利用料、ウェブサイトが備える機能の維持管理費用は、最大1年間分までが対象です。

 レンタルサーバーの利用料も含まれますが、補助金交付決定日以降に契約することが条件です。ウェブサイト向けの広告出稿料や広告枠の購入費は対象外です。

6 IT導入支援事業者選びのコツ

1)補助金の申請代行を任せてよい事業者か?

 IT導入補助金を利用した中小企業はITツールの運用開始後、自社の生産性がどのように改善したのかを5年にわたって報告する必要があります。従業員1人当たりの勤務時間や利益などを基に算出した値を、IT導入支援事業者が中小企業に代わって事務局に報告することになります。

 そのため中小企業は、自社の課題解決に適したITツールを提案してくれるIT導入支援事業者であるかを見極めるのはもとより、申請時のIT導入支援事業者と事務局のやり取りなどから、採択後や事業終了後の対応を任せて大丈夫かどうかも確認する必要があります。

2)ITベンダーとして信頼できるか?

 導入した後も自社の課題を親身に考え、解決に向けて取り組んでくれるIT導入支援事業者を選定することが大切です。例えば、これまで紙に手入力していた帳票類を電子化するワークフローシステムを導入する場合、過去の紙の帳票をどう電子化すれば手間を軽減できるかも考えなければなりません。こうしたITツール導入に伴って派生する煩雑な作業をどのように支援してくれるのかもチェックするとよいでしょう。

 このようなサポートが適切かどうかを見れば、ITツール導入後もしっかりサポートしてくれるIT導入支援事業者であるか否かを見極めることができます。

以上(2019年6月更新)
(監修 株式会社アライブビジネス)

執筆者

日本情報マート

中小企業の頼れる情報源として、経営者の意思決定をサポートするコンテンツを配信。「開業収支」「業界動向」「朝礼スピーチ」など2000本を超えるコンテンツを有するほか、年間200件以上の市場調査も行っている。現在、50を超える金融機関に情報提供を行っている。