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「製造業を中心とした国家戦略が必要」…トランプ関税にど
う対応するか、日本が問われるモノ

2025.05.23


 トランプ米政権の関税政策が企業のサプライチェーン(供給網)を揺さぶっている。高関税の影響を抑えるには、トランプ大統領の思惑通りに米国への生産移管や現地調達率の引き上げなどを迫られる。一方、国内の生産基盤を維持しなければ、産業の空洞化が進むリスクをはらむ。自国第一の影響が製造業にも及びつつあり、経済安全保障も考慮したモノづくりの戦略が問われる。(孝志勇輔)

 「国内生産をなるべく継続することを望んでいるし、輸出も続けてほしい」。経済産業省・中小企業庁の幹部は国内製造業の先行きに対する本音を明かす。

 トランプ政権が輸入車への追加関税を発動して以降、自動車業界は不透明感が強まり、日本勢の米国での生産増強などの動きが出始めている。貿易相手国と同水準の関税率を課す「相互関税」は上乗せ部分の執行が猶予されているものの、幅広い産業への打撃が懸念される。日本勢が対応策として米国市場を考慮した生産移転などを進めれば、国内のサプライヤーが影響を受ける可能性がある。

 しかし、製造業の復活を掲げるトランプ氏の狙い通りに行くとは限らない。「仮に(日本企業が)米国に新工場を建てても、ペイするのは難しい」(中小企業庁幹部)との見方もある。理由の一つが、トランプ政権の移民政策による影響だ。大和総研経済調査部の久後翔太郎シニアエコノミストは「米国人の雇用を奪うとして移民が排除されることで、労働力が不足する」と指摘する。人手不足に伴って人件費の上昇圧力が強まれば、米国事業の収益を圧迫しかねない。日本企業は関税と米国での“地産地消”ビジネスのリスクをにらみながら、慎重な判断を求められそうだ。

 米国が自国第一を色濃く反映した製造業への回帰を打ち出す一方、中国は産業の高度化を目指す政策「中国製造2025」を通じて、電気自動車(EV)をはじめとする中核産業の技術力を着々と高めている。米中が国を挙げて技術覇権を争う中、経済産業省の幹部は「製造業を中心とした国家戦略が必要」と説く。

 米国の関税政策により国際的な経済秩序が揺らぐことに伴って、重要性が一段と高まる経済安保をめぐり、経産省は関連産業や技術基盤の強化を加速する。行動計画を改訂し、産業の振興策と防衛策、国際・官民連携を一体で進める方針だ。このうち振興策では優位性を保てる研究開発支援を視野に入れる。同志国との連携や相互補完の関係も重視する。技術基盤や物資、データなどを自国に囲い込む傾向が強まっていることへの対応だ。「日本の技術や強みを磨き上げていくことが必要」(経産省幹部)とみる。

 経済安保におけるサプライチェーンを安定的に維持するために、リスクなどを把握・分析する「経済インテリジェンス」も強化する。国際社会での競争力と経済安保を両立する戦略が製造業にも問われそうだ。

 トランプ氏の朝令暮改の言動により、国内製造業を取り巻く状況は不透明感が強く、明確な方向性を打ち出しにくい。経産省はサプライチェーンへの影響を把握しつつ、国内の生産基盤や雇用を維持する方策を的確に打ち出すことが求められる。

日刊工業新聞 2025年05月08日