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〝迷惑施設〟が経済価値生む産業集積拠点に、佐賀市が世界
初の事業で実現した舞台裏
2025.11.26
迷惑施設、経済価値生む キュウリ栽培・微細藻類培養
10年前、佐賀市清掃工場の周辺は空き地だらけだった。今は広い屋根の建物が何棟も並ぶ。野菜を育てる園芸施設や微細藻類の培養施設だ。佐賀市が二酸化炭素(CO2)を回収・利用するCCUを商用化し、清掃工場を70億円以上の経済価値を生み出す産業集積拠点に変えた。地域の脱炭素と経済成長を両立させるきっかけが、住民の反対運動だった。
JR佐賀駅から4キロメートルほど離れた地域に清掃工場がある。高い煙突のある外観は、普通のゴミ焼却場だ。建物の裏へと回ると、配管が複雑に重なりながら真っすぐ伸びた装置がある。CO2の吸収塔だ。CO2を吸着するアミン溶液が入っており、ゴミの焼却で発生した排ガスからCO2を分離し、地上のタンクにためている。
そのCO2は、園芸施設や微細藻類培養施設に送っている。清掃工場の西側はJA全農の園芸施設。2019年に稼働し、全国平均の3倍のきゅうりを収穫している。室内のCO2濃度を高めることできゅうりの光合成を促進し、成長を早めた。
北側ではスタートアップのアルビータ(佐賀市)がサプリメントや化粧品の原料となる微細藻類を生産している。他に花王が高級化粧品の原料となるローズマリーなどの植物を育て、地元企業の佐電工(佐賀市)は高級イチゴを生産する。24年には熊谷組も進出した。
「ゴミ焼却場の統廃合がきっかけだった」。佐賀市GX推進課政策推進室の古賀亮一主任は、20年近く前の出来事を語る。市内に分散していたゴミ焼却場を現在の清掃工場に集約する計画が浮上すると、周辺住民が反対の声を上げた。ゴミの搬入量が増えるためだ。「“迷惑施設”から価値を生み出す施設に転換したい思いから、取り組みが始まった」(古賀主任)。
排ガスからCO2を回収する装置。日10トンを回収し、周辺施設に販売
市は13年、環境省の事業でCO2回収試験を開始。16年に日10トンのCO2回収による商業運転し、先陣を切って進出したアルビータへのCO2の販売を始めた。日本初のCCUの商用化であり、ゴミ処理場としては世界初のCCU事業だ。
熱も産業を呼び込む“吸引力”となった。ゴミの燃焼で発生した排熱も導管を通じて販売しており、園芸施設は室内の加温に活用している。相次ぐ進出による経済波及効果は20年時点で54億円以上。現在は直接投資だけで70億円以上の効果とみられる。迷惑施設を経済価値を生む拠点に転換する大胆な挑戦が成功した。
24年には供給するCO2がバイオマス由来であることを認証する「ISCC PLUS」認証を取得。進出企業の付加価値向上につなげ、さらに企業を呼び込む。
脱炭素や循環経済、バイオ産業が掛け合わさり、環境対策と地域経済への貢献を両立するモデルとなった。だが、当初から計画の全貌を描けていたわけではない。GX推進課政策推進室の前田修二室長は「ご用聞きをやってきた。1件ずつ問題を解消しようとしたとき、手段が資源循環だった。資源循環やCO2削減をやりたかったわけではない」と振り返る。発端となる“ご用聞き”が、有明海の海苔(のり)の色落ちだった。解決策を探るうち、下水処理場で汚水から除去する窒素とリンに着目。07年、冬の間は海苔の栄養となる窒素とリンの除去量を抑えた下水処理場の運転を始めた。
排ガスからCO2を回収する装置。日10トンを回収し、周辺施設に販売
09年、下水処理場で発生した汚泥を肥料化して売り出すと市外からも注文が来た。この成功体験があり「当時の市長から(反対運動がある)清掃工場でもやってほしい」(前田室長)と白羽の矢が立った。
いま、ご用聞きは市内の工場にもおよぶ。味の素の工場で発生した廃液を、王子マテリアの工場が排水処理剤として使っている。市が、味の素から相談を受け、王子マテリアに掛け合って地域での資源循環を実現させた。「我々が入ることで企業同士をマッチングできた」(古賀主査)と市の役割を語る。
今、佐賀市で循環経済に取り組みたい企業が増え、市が事務局のバイオサーキュラーエコノコミー協議会には75社が参加するまでになった。佐賀大学などの研究機関とも連携し、企業が新規事業に挑戦している。前田室長は「失敗を経験していない事業はない。失敗してもあきらめない本気の姿を見て、次の企業が進出している」と語り、新規事業を目指す企業にエールを送る。
熊谷組の循環農業 魚と野菜、同時に育てる
清掃工場周辺ではサーモンの養殖も始まっている。24年に進出した熊谷組の施設だ。
熊谷組の藻類培養装置。奥ではサーモンの養殖やミント栽培が行われている
室内に入ると、緑色の液体が満たされた装置が目に入った。緑の正体は微細藻類だ。水中をプクプクと上昇する気泡は、清掃工場からのCO2。自然光とCO2によって藻類に光合成を促して培養している。
施設の奥にあるのがサーモンを養殖する水槽だ。のぞくと泳いでいる姿を確認できた。1年かけて1・5キロ―2キログラムに育てる。25年5月に初出荷し、佐賀市のふるさと納税の返礼品になっている。
水槽の横では白い棚にミントの葉が並ぶ。水耕栽培になっており、根は水中から栄養をとる。その栄養は、サーモンの排せつ物や食べ残しをバクテリアに分解させて供給している。ミントが栄養を吸収すると水が浄化され、水槽に戻して養殖に繰り返し使う。
魚と野菜を同時に育てる循環型農業は「アクアポニックス」と呼ばれる。農薬や化学肥料の使用を抑え、廃水も少ない環境配慮型だ。熊谷組は藻類培養を組み合わせた事業を目指しており、藻類をサーモンのエサにすることが考えられる。24年は藻類培養とアクアポニックスをそれぞれ検証し、25年は相乗効果を実証中だ。
熊谷組技術研究所の城山真恵加研究員が新しい藻類を発見したことが契機だった。社内の新規事業創出プロジェクトに提案した1人の酒井祐介主任研究員は「独自株を分析するといろいろな効果がありそうだと分かった。そこでプロジェクトにチャレンジすることにした」と経緯を語る。
城山研究員は「独自株は外でも元気に育ち、増殖性が非常に高い。試験管で育てはじめ、スケールアップして屋外でも培養できることを確認できた。いま、機能性を調べている」と説明する。市のバイオサーキュラーエコノコミー協議会に参加するさまざまな分野の企業とも共同研究を進めている。多様な企業と連携しながら新規事業に挑戦できることも、佐賀市の魅力となっている。培養装置で増殖する藻類と同じように、佐賀市から新規事業が次々と生まれようとしている。
日刊工業新聞 2025年11月7日
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
厄介者のCO2を使い、普通なら人が近づかないゴミ焼却場に企業を呼び込みました。廃棄物行政を担当する「環境部」が、企業誘致をやりました。しかもCCUやサーキュラーエコノミーが目的ではなかったです。続く自治体が出てきてほしいです。
出典:ニュースイッチ Newswitch by 日刊工業新聞社