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「脱炭素実現」と「経済成長」の両立始まる転換点に202
6年がなる理由

2026.02.27


 2026年、脱炭素をめぐるマーケットに大きな変化が起きそうだ。4月以降、日本版の温室効果ガス(GHG)排出量取引制度がスタートすると、水素や合成メタンといった最新の脱炭素技術の需要が喚起される。さらに政府は、高コストが購入の妨げとなっている脱炭素製品の普及を支援する政策を打ち出す。26年は、脱炭素の実現と経済成長の両立が始まる転換点の年となる。

排出量取引 企業に義務付け/クリーンエネに需要

 日本版のGHG排出量取引制度は「GX―ETS」。大まかなルールは、企業が排出量の上限である「枠」に収まるように排出削減に取り組む。枠の大きさは企業が申請し、政府が確認して決める。排出削減に取り組んでも枠を超えた企業は、低く抑えた企業から枠を購入して埋め合わせする。

 直近3年間の二酸化炭素(CO2)排出量の平均が10万トン以上の300―400社が参加を義務付けられる。枠の購入が負担となるため、企業には排出削減が促される。

 基準となる10万トンは事業所内での化石燃料の利用に伴うCO2。高熱を必要とする製鉄や鋳造、焼成、乾燥などの工程を持つ企業が候補となる。“熱の脱炭素化”は、電力の使用で発生するCO2の削減よりも難易度が高く、設備更新が迫られる。

 例えばガスを燃焼させる加熱工程があれば、電気による加熱方式への転換が選択肢となる。ガスだきボイラは水素だきへの更新によって排出量を抑えられる。GX―ETSによって“熱の脱炭素化”への投資が動き出せば、電化や水素関連の設備メーカーに商機となる。

 すでに設備更新の動きがある。ジェイテクトは26年夏ごろ、花園工場(愛知県岡崎市)でアルミニウム溶解の燃料として水素の利用を始める計画だ。水素は太陽光パネルで発電した電力を使って水から製造した「グリーン水素」を使う。

 GHG削減価値を持つカーボンクレジットの取引も盛り上がりそうだ。GX―ETS参加企業は、カーボンクレジットを使って排出量を減らすこともできるからだ。現状では政府が管理する「J―クレジット」が利用可能となっている。

 J―クレジット制度運営事務局によると、J―クレジットを創出する事業の新規登録は年100件以下で推移していたが、23年度は130件、24年度は149件と増加した。GX―ETSの始動によってJ―クレジットの売買が活発になると見越し、創出事業が増えているようだ。

 企業と森林関係者が連携した創出事業も始まっている。ENEOSは25年8月、島根県と森林整備を通じたJ―クレジット創出に取り組むと発表した。県内の森林関係者は、J―クレジットの販売によって森林整備の資金を獲得できる。ENEOSは自社の排出量の削減だけでなく、地域にも貢献できる。

 東京証券取引所が23年10月に開設したカーボン・クレジット市場でのJ―クレジットの累計売買高が25年9月に100万トンを超えた。1日平均2153トンの売買となっている。直近の取引価格はCO21トン当たり5000円台なので、単純計算する1日の取引規模は1000万円台。森林整備以外にも再生エネ事業や省エネ投資もJ―クレジットの認証対象となっている。GX―ETSが機能すれば、J―クレジット取引を通じて森林整備や再生エネ、設備更新にも資金が供給され、脱炭素市場が盛り上がる。

万博レガシー活用 水素で合成メタン/CO2を循環利用

 25年開催の大阪・関西万博会場で、実際に見ることができた脱炭素技術の普及にも期待が膨らむ。その一つが、CO2と水素を原料に合成メタンをつくるメタネーションだ。会場内で大阪ガスがグリーン水素とCO2と使って合成メタンを生産していた。合成メタンは都市ガスの主成分と同じ。大阪ガスの設備では1時間に7立方メートルの合成メタンを製造していた。これは170世帯分に相当する。

 万博会場では合成メタンをコージェネレーション(熱電併給)設備の燃料として使用。燃焼によって発生した排ガスをエア・ウォーターの施設に送り、同社の設備で排ガス中のCO2を回収。そのCO2を大阪ガスのメタネーション設備に送って再び合成メタンを製造していた。CO2を資源として繰り返し使う「カーボンリサイクル」の実践だ。

大阪・関西万博の会場で稼働していた大阪ガスのメタネーション設備。170世帯分の合成メタンを製造

 1970年開催の大阪万博の会場には日本初となる地域冷暖房が導入された。大阪大学の下田吉之教授は「日本各地に地域冷暖房が普及する契機となっただけでなく、日本メーカーが大型冷凍機の製造技術を獲得できた」として大阪万博の“レガシー(遺産)”と評価する。

 25年の大阪・関西万博では、メタネーションやカーボンリサイクルが会期中の184日間にわたり運用された。“技術の祭典”での運転実績によって普及に弾みが付く。

GX製品・サービス 政府の普及策整う 「高くて売れない」解消

 「脱炭素と経済成長の両立」が叫ばれてきたが、脱炭素に貢献する製品は高コストとなるため購入がためらわれ、企業の成長につながっているとは言い切れなかった。「高くて売れない」状況を変えようと経済産業省は26年度、電気自動車(EV)やグリーン鉄、グリーンケミカル、水素、合成メタンなどを「GX製品・サービス」とし、積極的に調達する企業への優遇策を検討する。GX製品・サービスの市場を生み出す狙いだ。環境省も「脱炭素製品」を認定し、市場での差別化につなげる「ラベル制度」の導入を検討する。26年度に制度設計を終える予定だ。

排ガス中のCO2を回収するエア・ウォーターの設備。大阪・関西万博の期間中稼働

 日本はEVや燃料電池車、浮体式風力発電、家庭用燃料電池などを世界に先駆けて開発してきた。しかし、脱炭素製品の普及では欧米や中国に後れをとってきた。ニッセイアセットマネジメントの大関洋社長は「国内需要を喚起し、生産量を確保してコストを下げることで国際競争力が高まる。脱炭素を産業政策として強力に推進してほしい」と語る。政府による普及策が整いつつあり、26年は脱炭素製品が普及フェーズに入りそうだ。

 企業グループである日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)の山下良則代表理事(リコー会長)は「(脱炭素への)国民の理解も欠かせない。“自分ごと”と言うのは簡単だが、社会全体で共有するは難しい」と指摘する。企業の脱炭素への取り組みを消費者からも支持してもらえる機運づくりも課題として残るが、26年は脱炭素市場の創出に向けて前進する年となりそうだ。

日刊工業新聞 2026年01月01日

 松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
今年の関心事をまとめました。熱の脱炭素化、水素の活用、真の企業評価(格付けだけでなく、脱炭素に取り組む企業・商品が評価される)に期待しています。

出典:ニュースイッチ Newswitch by 日刊工業新聞社