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産業廃棄物処理の加山興業が「養蜂」を始めた理由

2026.05.22


「環境指標生物」安心の証に

 「おぉすごい。回せ回せ」。ミツバチの巣箱から取り出した巣枠を遠心分離機にかけて小学生が操作ハンドルをぐるぐると回すと、巣枠に入っていた蜂蜜が分離機の中で飛び出す。初めての光景に歓声を上げる男の子がいれば、食い入るように見つめる女の子も。産業廃棄物処理の加山興業(愛知県豊川市、加山順一郎社長)の千両リサイクルプラント(愛知県豊川市)の一角で4月18日の朝、毎年恒例の“加山ファーム”採蜜会が行われた。

 「地域の理解があってこそ事業を続けることができる」。加山社長は採蜜会の盛り上がりに目を細めつつ、20年前のことを思い出す。加山興業は産業廃棄物の回収処理、リサイクルを手がける。廃棄物が連日、工場に運び込まれる同社への地域の目は厳しい。ある日、工場の前を通学路にしている小学生が工場の前を歩く時はハンカチを口元にあてる光景を目の当たりにした。加山社長は小学生に「臭いのか」と尋ねた。子どもからは「そうではない」との返事。理由は大人に言われたからハンカチを当てているという。「体に悪い成分があるかもしれないと思われていた」(加山社長)。

 焼却炉から出る成分を公表し、健康に害がないことを訴えても理解してもらえない。「悔しい思いをした。社員も同じだ。住民の皆さんに正しく理解してもらうにはどうすれば良いかを検討した」(同)。社員との議論を重ね、工場の一角で自然環境を再現すれば、工場や事業活動が汚くないことの証明になる。「ピコだ、ナノだと数値を示すよりも、具体的な成果を体験してもらうことが、理解への早道」(同)。

養蜂を見学する地域住民

 2014年から養蜂を開始した。当初、社員の家族を中心に20人程度で始めた採蜜会は25年、近隣住民を含め300人が参加。26年は参加人数を120人に抑えて開催した。遠心分離機から取り出したできたて蜜を濾過し、パンやクラッカーにかけて頬張ると大人も子どもからも思わず「おいしい」と声が漏れる。

 「地球環境の変化も採蜜で知ることができる」と管理を担当する経営企画室の田畠真一室長は話す。巣箱は5個。それぞれに蜜をためる巣枠を1枚、または2枚設置する。担当者が連日、箱を観察し、ミツバチの動きを観察する。新たな女王蜂候補が誕生すると箱から取り出し、新たな集団づくりを促す。巣枠を増やせば採蜜量も増えやすいが、ミツバチが弱ることもある。また猛暑の夏にはミツバチが凶暴になることもあり、採蜜の量が減少する。冬の寒さが厳しいと越冬できないミツバチが増えるという。

里山の自然保護をスタート

 採蜜会の後は同社の処理プラントの見学会も開催する。無害化の取り組みや最新の焼却技術など大人にも子どもにも産廃処理を「正しく理解してもらいたい」(加山社長)と所期の目的を果たす。

 24年秋、近隣の里山を借り受け、新たな加山ファームの取り組みが始まった。「放置状態だった里山に手を入れて自然環境を保全する」(田端室長)。1万5000平方メートルの広さの里山を借り受け、樹木を間引きし、地面にも光が届くようにした。通路も整備し、所々に巣箱も設置した。協力したのは愛知県立猿投農林高校の生徒たちだ。

 2月にはシイタケの菌打ちを行い、3月にはタケノコ採りも実施した。「毎月、イベントを開催し、市域の皆さんにも参加してもらいたい」(同)。休耕地には多年草のイネ科植物「エリアンサス」を植えて、バイオマス燃料にする。早くも地元自治体からも自然学習などに生かせないかという相談も入りつつある。

 「産廃処理業の裏庭がきれいというのが良いでしょう」と加山社は話す。汚れ役であってもサプライチェーンの最後を担う矜恃を忘れない。地域との共生にも自信が芽生える。

日刊工業新聞 2026年05月08日

松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
世の中には必要不可欠だけど、迷惑がられている施設があります。加山社長が語るように正しく理解されることが、従業員にとっての価値にもなってほしいです。星川先輩の記事でした。

出典:ニュースイッチ Newswitch by 日刊工業新聞社