会社経営

半歩先行く中堅社員の視点 “初めてのチームリーダー”の
ための勇気が出る処方箋

2018.11.01

1 この温度差は何だ?

 初めてプロジェクトチームのリーダーを任された中堅社員のAさん。張り切って仕事に取り組んでいるのはよいのですが、最近はAさん一人が遅くまで残って仕事をしていることが多いようです。

 そんなAさんを見た課長は、プロジェクトチームのメンバーに、それとなくプロジェクトの進捗状況を確認してみました。すると、異口同音に「たぶん大丈夫だと思います」と、まるで人ごとのように答えます。

 ますます心配になった課長はAさんから話を聞いてみました。するとAさんは、「申し訳ありません。実は当初のスケジュールからかなり遅れています……」と、今にもデスクに戻って仕事をしたい様子です。

 課長は「他のメンバーはスケジュールが遅れているという認識が浅いみたいだけど、チームとして状況を共有できている?」と問いかけました。Aさんは「仕事はちゃんと分担しているんですが……」と、課長の指摘に戸惑っています。

 課長は「仕事を割り振るだけがリーダーではない。メンバー全員を巻き込んで、良いことも悪いことも共有しながら同じ目的に向かって足並みをそろえないと」と、アドバイスを続けました。

2 初めての大きな壁に戸惑う中堅社員

 中堅社員になると、プロジェクトチームのリーダー(以下「チームリーダー」)を任されることがあります。

 チームリーダーは、目的を達成するためにメンバーをまとめ、プロジェクトを進めていく役割を担います。そのためには、自分で動くだけではなく、他の人も動かしていかなければなりません。

 これまで、指示された仕事や自分の担当の仕事をこなすことが多かった中堅社員にとっては、「人を動かす」ことが大きな壁になることがあります。

3 チームリーダーに求められる3つの力

1.常に先を読み先導する力

 チームで仕事を進めていくためには、メンバーに明確な指示を出していかなければなりません。そのためには、まずプロジェクトの全体像を描き、メンバーに対してスケジュールとそれぞれの役割を分かりやすく伝えなければなりません。

 また、常に何手か先を読んでおく必要もあります。プロジェクトにはトラブルがつきものであるため、あらかじめプロジェクトの難所を把握し、発生する可能性のある問題と、問題が発生した場合を想定した「コンティンジェンシープラン」を立てておくことも、チームリーダーの重要な役割なのです。

2.気持ちも含めてメンバー全員を巻き込む力

 チームリーダーは、メンバー全員を巻き込んで仕事を進めていかなければなりません。「巻き込む」とは、仕事を分担するだけでなく、目的の達成に向けてメンバーのモチベーションを高め、チームに一体感を醸成することですが、これは簡単ではありません。メンバーはそれぞれ、能力や仕事の進め方はもちろん、性格や考え方、モチベーションの源泉が違うからです。そのため、メンバーを巻き込むには、まず、「よく見て、よく話す」ことを心掛ける必要があります。

 例えば、ミーティング時のメンバーの発言内容はもちろん、日ごろの行動にも注意を払いましょう。また、メンバーとよく話をして互いの考えを確認し合うことも重要です。常に本音で話し合うのは難しいものですが、話す回数を重ねることで、認識と気持ちを共有できるようになってきます。

 これだけで、メンバーを巻き込むことができるわけではありません。しかし、積極的なコミュニケーションを通じてメンバーへの理解を深めることが、そのための確実な第一歩となります。

3.任せることと自分でやることを分ける力

 チームリーダーは、その権限の範囲内においてプロジェクトに関する責任を負います。

 とはいえ、全ての仕事に対して主体的に関わる必要はありません。

 チームリーダーはいわば司令塔です。細かな進め方はメンバーに任せる一方で、チームリーダーは進捗状況や懸案事項などの情報を全て集約できる体制を整え、プロジェクト全体を管理していくようなイメージを持つことが大切です。

4 “初めてのチームリーダー”の心構え

 チームリーダーはプロジェクトを進めていく中でさまざまな局面に遭遇します。そのため、特に初めてチームリーダーとなる中堅社員には、次のような心構えが必要です。

1.メンバーに対する信頼と感謝

 指示した通りにメンバーが動いてくれないとき、リーダーは「自分がやったほうが早い」と感じてしまうことがあるでしょう。しかし、メンバーの頑張りなくしてプロジェクトの成功はあり得ません。自分の思い通りに“動かす”のではなく、メンバーを信じて任せることです。また、日ごろの頑張りに対する感謝の気持ちを忘れてはなりません。

2.判断する基準

 チームリーダーは、さまざまな決断に迫られます。ときには、メンバーが理解できないような判断をすることもあります。複雑な事態が続けば判断がブレることもあり、それが原因でメンバーの不信感を招き、プロジェクトの停滞・失敗の原因となることもあります。

 そうならないように、リーダーは明確な判断の基準を持ちましょう。基準はプロジェクトの目的とリスクの回避です。今選択しようとしていることは目的に合っているか、リスクを生み出さないかを考えてみるのです。

 そうしていてもチームリーダーは判断を間違えます。それに気付いたときは素直に自分の間違いを認め、メンバーの力を借りながら、課題を解決できるよう前を向きましょう。自分の中ではじくじたる思いがあっても、その気持ちを引きずらず、前向きな雰囲気をつくるのもチームリーダーの仕事です。

3.格好つけない勇気

 初めてチームリーダーになった人は、気負い過ぎて、一人で抱え込みがちな傾向があります。しかし、チームにはメンバーがいます。上司をはじめ社内の人たちもいます。判断ミスが続いたり、考えがまとまらないときは、メンバーや上司に相談しましょう。きっと力になってくれるはずです。

 チームリーダーは「孤独」ではありません。“初めてのチームリーダー”は、このことを決して忘れてはなりません。

以上

執筆者

日本情報マート

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