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「日米関税交渉」ヤマ場…投資意欲すでに減退、中小企業に
できること
2025.06.24
日本経済が踊り場に立たされている。米国の関税政策は、日本の自動車や鉄鋼業はもとより、1次・2次下請け中小製造業に与える影響も大きい。関税交渉は合意に向け議論が進展するも、国内では先行きへの不透明感から企業の設備投資マインドに影響が出始めている。政府・与党は7月の参院選への追い風とするべく、先進7カ国首脳会議(G7サミット)での首脳会談を模索、日米の関税交渉は6月中旬にヤマ場を迎える。(編集委員・安久井建市)
モノやサービスの付加価値の合計額を表す国内総生産(GDP)。その柱の一つである設備投資は足元では好調だ。内閣府がまとめた2025年1―3月期のGDPは、民間企業の設備投資が4四半期連続で前期比の伸び率がプラスだった。コロナ禍での落ち込みから回復し、省力化やデジタル変革(DX)向けの投資が増えた。
しかし、先行きは不透明だ。米国の関税がコストアップ要因となり、企業の投資マインドに影響が出かねない。内閣府の景気ウオッチャー調査では「米政権の関税引上げの影響により、今後の受注減少や取引先からの値下げ圧力を懸念する」(繊維工業)など、先行きを懸念する声が多く聞かれた。
5月末までに決算発表を終えた自動車や鉄鋼業の2026年3月期の業績予想をみると、米国の関税政策の影響を織り込み、大幅な減益予想で、企業によっては設備投資も減額する見通し。日産自動車は工場統廃合を含めた事業再構築に乗り出すため、中小製造業への影響は小さくない。
帝国データバンクが2万6590社を対象に調べた「設備投資に関する企業の意識調査」によると、2025年度に設備投資を「予定していない」企業は前年比1・3ポイント増の34・4%となり、その半数が先行きが見通せないことを理由にした。「投資計画のある企業も、ない企業もトランプ関税を念頭に、計画縮小や中止に追い込まれることを懸念する」(同社情報統括部)と、投資に二の足を踏んでいる状況が浮き彫りになった。
日本政府の交渉団は4回目の交渉を終えて1日に帰国したばかり。今週、パリで開催される経済協力開発機構(OECD)の閣僚会合でも米閣僚との接触を模索するが、最大のヤマ場は米トランプ大統領が出席するカナダでのG7サミットだろう。石破茂首相とトランプ大統領の日米首脳会談を開いて決着させる可能性が高い。
踊り場から再び上に行く道筋として、中小企業にできることは一つ。「固定費を下げて損益分岐点を改善する」(関東地区の特殊土木業)こと。稼働率の低い工場の統廃合を進め、同時に人員を適正規模にする。日米交渉が妥結すれば関税は避けられないものとして「損益計算に入れながら投資に踏み切ることができる」(同)という。
政府・与党は7月に投開票が実施される参院選への追い風を期待して、関税交渉を決着させることが予想できる。枠組みが決まれば、霧が晴れるため、投資マインドの改善も期待できる。
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トランプ米政権の関税政策が日本の中小企業に打撃を与える可能性が高まっています。関税の影響を受けた親事業者からの受注減少や、それに伴う資金繰りの悪化が予想されます。日刊工業新聞電子版では中小企業の影響をはじめ、トランプ関税が産業界に与える影響に関する情報をまとめています。
日刊工業新聞 2025年06月02日