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社会課題解決をビジネスに…「環境スタートアップは“ど真
ん中”」(環境副大臣・小林史明氏)

2025.06.24


新興育成の方向性定まる

環境省はビジネスでの環境課題解決を目指す「環境スタートアップ」を育成する政策の方向性を発表し、起業直後の成長を支えるため公共調達の活用を強調した。方向性を取りまとめた小林史明環境副大臣はM&A(合併・買収)の活性化も訴える。「地方の中堅企業もスタートアップへのM&Aによって成長できる」と力説する小林副大臣に環境スタートアップ育成の秘策を聞いた。

―環境スタートアップへの期待は。
「石破政権が掲げる『新しい資本主義』の基本的発想は、社会課題の解決を新しいビジネスにすること。環境スタートアップは“ど真ん中”だ。脱炭素、サーキュラーエコノミー(循環経済)、ネイチャーポジティブ(自然再生)には新技術と新しいビジネスモデルが不可欠であり、環境スタートアップに期待がかかる。また、既存企業も成長のチャンスだ。世界的な大企業はスタートアップをM&Aして成長している。日本にはM&Aに伸びしろがある」

―政策の方向性として公共調達の活用を強調しています。
「環境スタートアップはディープテックであり、開発コストがかかる。量産化でもコストがかかるが、初期需要が見えづらい。モノが売れると評価されて資金を調達できるが、新技術なので高価。だからこそ、初めのユーザーが大切であり、政府が調達によって初期需要を支える。しかも公共調達は年20兆―30兆円の規模がある。政府の購入実績は、海外でも信用される。早速、環境省の担当者がスタートアップ向けにグリーン購入法の説明会を開いた」

―ソフト系スタートップ(デジタルサービスなど)の課題は。
「ハード系(製造業)は売上高を作ること、ソフト系はデータが命。政府が保有する環境データを扱いやすいように公開できないか検討したい。スタートアップ側からは、更新頻度を上げてほしいという要望があった。国立環境研究所が持つ技術シーズもビジネスに結びつけたい」

―米国と比べ、ベンチャーキャピタル(VC)や企業からのスタートアップへの投資額が小さいです。実際、資金調達に苦労するスタートアップが多いです。
「資本もネットワークも持つ大企業がスタートアップに出資やM&Aを実行することで、スタートアップは規模を大きくできる。政府は、既存企業がスタートアップの株式を取得しやすくするオープンイノベーション促進税制を拡充した。また、会計基準の見直しによるのれん代の非償却を検討している。のれん代の非償却化は、M&A市場を活性化するだろう。地方の中堅企業もM&Aによって成長できる」

「米国ではクライメートテックへの投資が難しくなっており、日本が受け皿になれる。世界中のディープテック研究者とVCを集める拠点を都内に整備する『グローバル・スタートアップ・キャンパス構想』があり、海外から投資を呼び込むチャンスだ。環境省も参画していく」

―地方でも企業が中心となってスタートアップを集積させようとする動きがあります。
「地方にカルチャーと産業があるから、企業は投資しようと思う。それに製造を支える土地と産業がないとスタートアップは育たない。そう考えると地方にチャンスがある。立地政策と連動させて地方創生を実現できる」

―日本に米テスラのような巨大スタートアップを作るには。
「やはりM&A市場の活性化だ。イーロン・マスク氏も一度の起業で巨大企業をつくったわけではない。スタートアップを立ち上げた経営者が売却後、経験を生かして再度、起業してさらに大きなインパクトを生み出してほしい」

【記者の目/“VB卒業”後押しする政策を】
起業数が指標となり、出口戦略も新規株式公開(IPO)に偏重するのが日本のスタートアップの現状だ。中堅企業もM&Aを実行し、地域のスタートアップを育ててほしい。創業から20年以上でもベンチャーを名乗る企業も珍しくない。ベンチャーの冠を早く外せるようにスピード成長を果たせる政策が求められる。(編集委員・松木喬)

日刊工業新聞 2025年06月13日

松木喬 Matsuki Takashi
編集局第二産業部 編集委員
個人的な感覚でいえば、大企業の困り事を解決するスタートアップが市場で受けいられている気がします。例えば廃棄物を減らしたい課題に対するソリューションです。B2Bなら成長しやすいのかなと思います。お話をお聞きし、環境分野ではないですが起業と売却を2度経験後、既存組織のトップに迎えられ改革を続けている経営者を思い出しました。今後、政策によって、様々な新陳代謝の加速を期待したいです。