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“得意技”で復興支援、LINEヤフーが「プロボノ活動」
で得たモノ

2025.06.24


能登の宿泊サイト改良 空室情報更新の課題解決

 社員が専門的な知識や技能を無償提供して社会貢献する「プロボノ活動」を採り入れる企業が増えている。LINEヤフーは2024年1月に発生した能登半島地震の被災地支援を中心にプロボノ活動を展開している。普段の業務で身に付けたスキルを課題解決に役立てた社員は、自身の仕事の価値を再認識する機会になっている。

 LINEヤフーは23年10月にプロボノ活動を始めた。CSR推進部の田村夏子さんは「社会貢献したい社員の声に応えたかった」ときっかけを話す。同社は社外から支援依頼があるとプロジェクトを組成し、社員から希望者を募る。参加期間は3―4カ月、業務外の時間を使った活動が基本だ。これまでにNPOなどの要請を受けて14件のプロジェクトを立ち上げ、社員がシステム開発や記事・動画制作、プロモーションなどに協力した。

 エンジニアの今谷祐通さんは同じ部署のメンバーと、能登半島の宿泊施設サイトの開発支援のプロボノに参加した。能登には民宿や個人経営の宿が多い。復興のボランティアや工事作業者が宿泊に使うが、空室情報の更新に課題を抱えていた。観光協会が週1回、宿に電話して空き状況を聞いてホームページに掲載するので、作業者などに情報が伝わるまで時間差があった。

 そこで観光支援事業の能登DMC(石川県七尾市)から、対話アプリケーション「LINE(ライン)」を活用したサイト開発の依頼がLINEヤフーに届いた。宿の経営者は高齢でも、家族との連絡でラインを使っていたからだ。今谷さんたちは経営者がスマホでラインに入力すると、空き情報が自動で更新されるシステムを制作した。宿側の手間が少なく、利用者にもタイムリーに情報を提供できる。

 今谷さんは仕事を終えた夜、メンバーとオンラインで打ち合わせしながら開発した。「もともとシビック・テック(技術やデータを活用した行政サービスの改善)に興味があった。普段の業務と違って利用者が明確であり、喜んでもらえていると実感できた。貴重な経験だった」と振り返る。

福島の企業イベント支援 地域貢献で自分も磨く

 企画デザイン部の田宮裕史さんは、OWB(福島県南相馬市)の創業10周年イベントを支援するプロボノに参加した。田宮さんは企画職であるため「プロボノに興味はあったが、エンジニアではない自分に合う活動がなくて参加を見送っていた」と打ち明ける。

田宮さんが企画を支援したイベント。本番も裏方で進行をサポート

 ただ、依頼はイベントの企画・運営案に対して意見を言う「壁打ち役」だったので、手を挙げることができた。またOWBの和田智行代表の“熱い”思いにも胸を打たれた。OWBは東日本大震災からの復興を目的とした会社。和田代表は「福島の課題は日本の課題であり、課題解決はみんなで取り組まないといけない。企業の力も必要と呼びかけた」という。

 イベントの開催に向けて田宮さんは普段の業務で培った「発言しやすいイベント進行」の助言に加え、壁打ち役として「東京で働いている人の視点からのアドバイス」もした。

 活動を振り返り「無意識のうちに東京と福島とで“壁”を作ってしまっていた。一緒に取り組むことで壁を取り払えると分かった。また、全国にサービスを展開しながらも、ついつい東京で暮らす人をユーザーとして想定していた。ラインの使い方、ヤフーの検索について地域の目線を感じられて刺激的だった」と感想を語る。

 LINEヤフーは新たな取り組みとして、他社と連携してプロボノを展開する「プロボ能登」を立ち上げた。能登官民連携復興センターと共同で地域のニーズを聞き、参加企業にプロボノを紹介する。田村さんは「支援ニーズに対して人が足りない。LINEヤフーだけでは限界があり、他社と連携する」と目的を語る。

 プロボノは支援先に貢献するだけでなく、社員が新たな知識や経験を習得して仕事への意欲を高める場となる。業務との両立が課題だが、参加は人材育成の機会になる。

日刊工業新聞 2025年05月23日

松木喬 Matsuki Takashi
編集局第二産業部 編集委員
ついつい、東京を想定して話をしてしまうこと多いです。支援してあげているようで、自身もしっかりと学ぶのがプロボノの良さと思いました。