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酷暑環境にも効く最先端「冷却服」、熱中症対策義務化で大
注目
2025.07.22
労働現場の熱中症対策が急務になっている。職場における熱中症の死傷者数は年1000人程度に上り、政府は6月から対策を罰則付きで義務付ける。一方、現場ではすでにファン付きの作業服やスポットクーラーの導入といった対策が進むものの、炎天下の屋外や高温の機械付近といった酷暑環境では冷感が不足したり、冷却エリアが限られたりするなど、冷却機能と作業性の両立などに課題が残る。
こうした中、日本シグマックスは温度差を発生させる半導体「ペルチェ素子」の冷却と水冷を組み合わせた冷却服「メディエイド アイシングギア ベスト2」を開発した。長年の医療機器開発で蓄積した 知見を生かした製品で、酷暑下での高い冷却性能と作業性を両立する。2023年に発売した初代モデルから冷却性能や稼働時間などを進化させた同製品が、これまで十分な対策をする手段がなかった労働現場から注目されそうだ。
独自技術で課題解決
「アイシングギア ベスト2」は冷却パッドを備えたインナーとペルチェ素子を用いた冷却ユニットやバッテリーを搭載したアウターで構成する。インナー、作業着、アウターの順番で体に装着する。冷却ユニットとバッテリーのUSBケーブルを接続して電源を入れると、ペルチェ素子で冷却した水が冷却パッド内の流路を循環し、広範囲に密着した状態で体を冷やす。35℃以上の酷暑環境でも環境温度に比べて約20℃低い冷水を循環させられる。また、冷却の強弱を2分おきに自動で切り替える温度調節機能により、皮膚表面の温度が変動し続け、適切に冷感を感じ続けられる。約5時間連続で稼働できる持続性も特徴だ。
装着が身体に与える効果として心拍数や深部体温が上昇しにくい結果が出ている。温度35℃、相対湿度50%の暑熱条件下で踏み台昇降運動を20分間行った結果、未装着の場合に比べて平均心拍数は5.1、深部温上昇量は0.14少なかった。日本シグマックス商品企画開発部開発2課の木川卓也リーダーは「脈拍や深部体温が上がりにくいということは、運動中の暑いという感覚が抑制されているということ。ただ単純に冷たいだけでなく、体の安全を守る効果が示せている」と強調する。


日本シグマックス 商品企画開発部 開発2課 リーダー 木川 卓也 氏
ペルチェ素子は電気を流すと温度差を発生させ、冷却面から放熱面に熱を移動させる。日本シグマックスはそのペルチェ素子を使った冷却療法用器具及び装置などを1997年から整形外科に供給してきた。アイシングギア ベスト2では冷却療法用器具及び装置の最新製品「CE4000Ⅱ」で使用している技術を応用した。独自の設計や部品開発により、商用電力で動作する同製品をバッテリー駆動にして軽量化しつつ、高い冷却性能を実現した。
そのポイントの一つが、冷却ユニットに搭載するヒートパイプ放熱フィンだ。ペルチェ素子が高い冷却機能を維持し続けるためには放熱面に移動した熱の排出が欠かせない。CE4000Ⅱのほか、多くの電子機器の排熱には一般にアルミの放熱フィンを用いられる。一方、アイシングギア ベスト2はアルミに比べて軽量で排熱効率が高いヒートパイプの放熱フィンを独自開発して搭載した。回路設計の最適化なども図ることで、長時間の稼働を支える大容量バッテリーを搭載しつつ、全体の重さは1.8キログラムに抑えた。
また、冷却パッドに備えた流路も独自に開発して特許を取得している。事前に圧力を加えた上で冷却パッドに水を注入する仕組みで、パッドが膨張してフレキシブルな面チューブになる。ただ、チューブの水は多すぎるとうまく冷却できず、少なすぎると循環しない。圧力は高すぎると冷却パッドが破れ、低すぎると水が循環しない。日本シグマックスは実験を積み重ねて最適な圧力や水量を見いだした。これにより、体の広範囲にフィットして冷却できるようにした。
職場の熱中症対策、罰則付き義務化
労働現場の熱中症対策は今や社会課題だ。対策を怠ると労働災害につながる。職場における熱中症の死傷者数は2023年に1106人にも上っており、政府は職場の熱中症対策について従前の「努力義務」を「罰則付きで義務化」に改める。具体的には、気温や湿度などを総合的に考慮した暑さ指数(WBGT)28超かつ気温31℃以上の環境下で、連続1時間以上もしくは1日4時間以上の実施が見込まれる作業について「早期発見のための体制整備」「重篤化を防ぐための措置の実施手順の作成」「関係作業者への周知」を企業に求める。
もちろん企業はすでに多様な対策を進めている。休憩スペースの確保や水分・塩分補給などはもちろん、ファンが付いたり保冷剤を備えたりした作業服の利用も一般化してきた。ただ、酷暑環境下で冷感と持続性、作業性を満たす手段は十分ではない。アイシングギア ベスト2はそうした現状では対策が難しい酷暑環境でその性能を発揮する。商品企画開発部開発2課の宗村祐太氏は「猛暑日の屋外のほか、湿度が高く息苦しさを感じるような室内などで使って欲しい」と説明する。

日本シグマックス 商品企画開発部 開発2課 宗村 祐太 氏
価格は15万9500円(税込)。今後は展示会への出展などを通して認知度の向上を図り、年1000台の販売を目指す。木川リーダーは「酷暑環境での作業は労働災害が起きてしまう可能性がある。アイシングギア ベスト2は、そうしたリスクを抑制できる製品。健康を守るために使って欲しい」と力を込める。
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