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Bリーグ・アルバルク東京に見る、企業とプロスポーツの変
わる関係性

2025.09.22


 プロバスケットボール・Bリーグのアルバルク東京の試合会場に行くと、環境活動を体験できる。クラブを運営するトヨタアルバルク東京(東京都文京区)が企業と連携し、観客が環境を意識した行動を始めるきっかけとなる企画を用意しているからだ。プロスポーツは市民に夢や感動を与えるだけでなく、社会課題解決に取り組む存在となっており、企業との関係性も変わってきた。

マイボトル持参→グッズ抽選/観客が紙コップ洗浄→再利用

 社会的責任プロジェクト「ALVARK Will(アルバルクウィル)」の活動の一つに「マイボトル推進プロジェクト」がある。マイボトルを持って観戦に訪れたファンは、特別なノベルティーをもらえる抽選に参加できる。

 この企画は、ステンレス製魔法瓶を販売するサーモス(東京都港区)との取り組みだ。環境を意識してマイボトルを持ち歩く人が増えている。だが、同社は平日の学校や職場に比べ、休日のレジャーではマイボトル持参者が減ると感じていた。アルバルクとのプロジェクトで観戦者の休日のマイボトル持参を習慣化できれば、サーモスは課題を解決できる。会場内で飲み終わったペットボトルの回収量を減らせるため、アルバルクも環境に貢献できる。環境活動を習慣化するきっかけづくりがアルバルクウィルの特徴だ。

満員の会場(代々木第一)。スポーツクラブは求心力や発信力が強み(アルバルク東京提供)

 アルバルクウィルは2021年に始動し、「健康」「成長」、そして「環境」を活動の重要テーマに位置付けた。主催試合や事務所での業務に伴う二酸化炭素(CO2)排出量は約年2200トン(スコープ1、2、3)。炭素クレジット購入によるカーボンオフセットを実施しているが、日本全体の排出量と比べるとわずかだ。コミュニティ・SRグループの栗盛謙マネージャーは「私たちの影響は小さい」としつつも「スポーツクラブにはユニークな強みがある」と説明する。

 強みとはファンや企業、ボランティアなどを集める「求心力」、多くの人に届けられる「発信力」、そしてファンクラブなどアルバルクに興味を持つ人々の「コミュニティー」だ。会場では何千人に発信できる。しかも選手やクラブからの呼びかけであれば、ファンも関心を持ちやすい。観戦後、環境を意識して行動する人が増えれば「我々の企業規模以上に社会に貢献できる」(栗盛マネージャー)と見込む。

 連携する企業にとっても実践の場は貴重だ。かつてユニホームやスタジアムでの社名の露出が、スポンサーのメリットだった。スポーツの視聴方法が多様化し、スポンサー営業も変化。クラブと企業との関係性も変わり、呼び方がスポンサー企業から「パートナー企業」となった。パートナー事業室の田中剛室長は「パートナー企業の課題を見つけ、一緒に解決方法を話し合っている。我々はスポーツのアセットを活用し、熱いファンも巻き込んだ解決策を提案できる」と説明する。そしてアルバルクのファンが、企業にも愛着を持つようになる効果も期待できる。

再生可能エネルギーの活用や廃棄物の全量再生に取り組む新本拠地「トヨタアリーナ東京」(アルバルク東京提供)

 東洋製缶グループホールディングスとは紙コップ洗浄装置を会場に設置する取り組みが生まれた。使用済みの紙コップを観客に洗浄してもらい、回収場所に置いてもらう。紙コップはきれいになるとリサイクルしやすくなる。観客は洗浄の体験を通じ、資源循環に大切な行動を理解できる。

 試合会場での紙カップの回収率は22―23年シーズンの23・9%が、23―24年シーズンは38・1%に上昇。さらに25年4月は59・85%を記録し、洗浄が習慣化しつつある。アルバルクはプロジェクトで連携する企業と評価方法を決め、シーズン後に結果を報告している。

 アルバルクの新本拠地「トヨタアリーナ東京」(東京都江東区)は再生可能エネルギーを活用し、廃棄物は全量リサイクルする。使用済み紙コップを原料に紙コップを再生する水平リサイクルも導入する。新シーズン開幕は10月3日。栗盛マネージャーは「新アリーナでファンや地域、企業の方とより連携し、サステナブルな取り組みを進める」と意気込む。

日刊工業新聞 2025年08月22日
出典:ニュースイッチ Newswitch by 日刊工業新聞社

松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
Bリーグ全体の成長が早いと感じます。それも各クラブとパートナー企業との連携によるモノかなと思いました。記事で触れられませんでしたが、環境問題に関心がある人がアルバルクの取り組みを知ってクラブのファンになる、という展開も期待しているそうです。