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次世代開発・生産実現に向けたR&D、PLMの変革を考え
る1日 ~R&D/PLMフォーラム2024【期間限定無料配信】

2024.07.17


 PwCコンサルティングは、都内で「R&D/PLM FOURM 2024」(日刊工業新聞社共催)を開催した。世界規模でさまざまな変化が起こりつつあり、企業においても競争激化への対応や従来ビジネスモデルからの脱却が求められている。R&D領域は製品やサービスを生み出し、バリューチェーンの出発点となることから重要な領域だが、変革活動が十分ではないケースも散見される。“次世代開発・生産実現に向けたR&D、PLMの変革を考える1日”をテーマに、クライアント企業が変革の方針や活動事例を紹介した。

PwCコンサルティング 執行役員 エンタープライズトランスフォーメーション事業部 Industry solution サブリーダー R&D/PLM統括責任者 寺島 克也
PwCコンサルティング エンタープライズトランスフォーメーション事業部 Industry solution R&D/PLM Non Auto CoE リーダー 渡辺 智宏
PwCコンサルティング エンタープライズトランスフォーメーション事業部 Industry solution R&D/PLM Auto CoE リーダー 渡邉 伸一郎

IHI 技術開発本部管理部長 津乗 充良氏
IHI 技術開発本部管理部業務グループ長 山内 邦博氏
デンソー 基幹システム推進部企画室プロセス企画1課長 岩瀬 潤 氏
ニッパツ 技術本部DX推進プロジェクト プロジェクト統括部長 大山 誠司 氏
ホンダ 電動事業開発本部BEV企画統括部開発プロセス改革部長 大久保 宏祐 氏
日立製作所 研究開発グループ サービスシステムイノベーションセンタ DXエンジニアリング研究部 リーダー主任研究員 長野 岳彦 氏

ごあいさつ

「現場感」シェアしよう/PwCコンサルティング 寺島 克也

PwCコンサルティング 寺島克也

 本日は本フォーラムにお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。PwCコンサルティングは、戦略から実行までをご支援する総合系のコンサルティングファームです。さまざまな専門チームがある中、その一つにR&D、およびエンジニアリングチェーン領域を専門とするチームがあります。

 この領域において、パッケージベンダーやSIerが主催するフォーラムは数多くありますが、コンサルティングファーム主催によるフォーラムはほとんどありません。今回は特定のパッケージやソリューションには必ずしもこだわらず、幅広い取り組み内容や、実際の現場感をシェアし合い、それを自社に持ち帰って皆さまの変革活動の推進に生かしてほしいと思います。本日は1日、よろしくお願いいたします。

製造業を取り巻く環境変化とR&Dイノベーションの重要性

「クロスインダストリーを/PwCコンサルティング 渡辺 智宏・渡邉 伸一郎

PwCコンサルティング 渡辺智宏

PwCコンサルティング 渡邉伸一郎

 製造業を取り巻く環境は、政治・経済・社会・技術の要因が複雑に絡み合っています。今、世界が近くなり、つながりが強くなってきたことで、一つ言えるのは、遠い国の話がダイレクトにリンクする時代になってきたということです。例えば、コロナ禍で米国の物流が目詰まりして物流網の混乱や物流費上昇を招きました。

 それだけに、製造業がVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の中で生き残るには、サプライチェーンのリスクを踏まえた上で、エンジニアリングチェーンを設計することが重要になっています。製品のQCD(品質・コスト・納期)の目標を達成することに加え、サプライチェーンの問題発生に俊敏に対応するため、技術・製品開発などを高度化することが必須と言えます。

 エンジニアリングチェーン領域のR&D機能では、技術を強みとした新規事業開発が求められます。プロダクトアウトにならないように新事業を立ち上げる役割を担っています。一方、既存事業においては、業務改革とデジタル改革があります。これを一体化して進めるケースが多いですが、デジタルを用いない改革もあるので分けて考えています。

 私たちはエンジニアリングチェーン領域を広く捉えており、2050年の未来を洞察してビジョンを描くことからスタートしています。この未来構想から基礎研究・技術開発、事業・商品企画、開発・設計・試作評価、生産準備までの改革を支援しています。

 今後、情報システムの高度化によって製品がつながり、価値を創出するシステムオブシステムズ(SoS)の世界になるでしょう。これを成功に導くキーファクターとして、異業種を巻き込んだ「クロスインダストリー」が重要になっています。例えば自動車業界ではCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)によってエコシステムが変化し、価値が多様化しています。

 本フォーラムが、モノづくりの根幹であるエンジニアリングチェーンの業界をまたいだイノベーションの機会の創出、交流の機会づくりのきっかけの一助になればと考えています。

R&D部門における研究開発プロセス改革の取り組み

マトリクス型で組織運営/IHI 津乗 充良氏・山内 邦博氏

IHI 津乗充良氏

IHI 山内邦博氏

 技術開発本部では、変化のスピードが速い社会課題やニーズに対応するため、開発技術の早期の実用化を目指しています。まず、研究開発の初期段階で実施する多種多様なシミュレーションでボトルネックを見極め、開発計画を最適化するモデルベース開発を推進しています。また、従来以上にシミュレーションを活用し、スケールアップの試作検証を代替しています。さらに、複数のセンターをまとめてフラット化し、組織を柔軟に変化させています。2023年度は、機能別の基盤技術開発と、社会課題や顧客ニーズに対応するプロジェクト型開発の両立を目指した、マトリクス型の組織運営を行っています。

 組織体制の変更により、複数技術にまたがる大規模プロジェクトを成功に導くプロジェクトリーダー(PL)の育成が課題として顕在化しました。このため、プロジェクトマネジメント(PM)力の強化に向けて「PM水準アセスメント」「PM教育」「PM伴走支援」による研究開発プロセス改革に取り組んでいます。

 PM水準アセスメントによってPLの力量を把握し、可視化した結果、計画立案と振り返りが共通課題であることが分かりました。計画立案の強化に向け、ワークショップ形式の座学とグループワークを実施したところ、PMの理解促進に効果があり、PLからも好感する声が聞かれました。

 PM伴走支援は「目標設定―活動計画策定―進捗(しんちょく)のモニタリング―変更管理」のPMサイクルを効率的に回すことを目標としました。特に、技術開発で目指しているビジネスモデルを理解した上でプロジェクト目標を設定する、全体像を整理してスコープを明確化するといったことを通じ、ステークホルダーとの合意形成を促進することに重点を置きました。またプランニングによる活動項目の具体化と日程計画の策定にも取り組みました。

 実際に三つのプロジェクトを伴走支援した結果、新たな気づきもありました。PMは複雑で、レベルアップも一朝一夕にはいきません。引き続き、PMに関する知見を基盤としてまとめ、水平展開する考えです。

期間限定無料配信 動画で確認いただきたい場合はこちらから
https://www.pwc.com/jp/ja/seminars/c1240603.html

デンソーにおける製品情報のデジタル化の取り組み

図面文化の払拭に向けて/デンソー 岩瀬 潤氏

デンソー 岩瀬潤氏

 自動車部品の開発において、顧客はデジタル情報連携による工期短縮を求めています。また、デジタルを活用した異業種からの参入に対する差別化が重要となります。これらを背景に、データとデジタル技術を駆使した業務改革は重要課題となっています。

 弊社は約5年前から図面情報をデジタル化し、一貫活用することでエンジニアリングチェーンを効率化する活動を展開してきました。属人的な業務を自動化し、会社全体として人的リソースを、より付加価値の高い業務にシフトしています。

 このデジタル図面をTDP(テクニカルデータパッケージ)と名付けています。TDPには、マシンリーダブル(機械可読)なデータ形式であること、標準化による互換性を促進することなどを意識して取り組んでいます。

 この活動の進め方として、まず仕組みづくりについて説明します。従来はE―BOM(設計部品表)で一元管理するプロセスを内製のスクラッチで開発していましたが、これを市販のパッケージに刷新しました。形状情報(2次元・3次元)と、変更履歴などの管理情報をシステム内でひも付けて管理しています。

 続いて、図面種と機能開発のステップです。メカ・エレ・ソフトの各部品があり、社内図には単品図や多品一様図などがあります。まず、メカ部品の単品図から機能開発し、国内設計分の機能開発を終えました。2024年度中には多品一様図の機能開発を進めます。

 機能開発と並行し、業務への適用も進めてきました。約の部署に対し、作成・活用・情報管理の項目で、現状と5年後の目指す姿を調査しました。3DAモデル(注釈付き3次元モデル)化に向けたスキルアップといった課題や投資対効果を見極め、図面デジタル化の成熟度レベルを6段階に定義しました。現在はレベルが高いファーストグループをけん引役とし、成功事例をセカンドグループに横展開する段階になりました。

 また、TDPには「管理情報」「2次元+管理情報」「3DA+管理情報」の三つのパターンがあり、それぞれのユースケースで業務適用を始めています。取り組みは始まったばかりですが、3DA化を促進し、対象となる業務を広げたいと考えています。

対談 5年間の業務改革活動を通じて得られた教訓

開発プロセス標準化徹底/ニッパツ 大山 誠司氏

ニッパツ 大山誠司氏

 渡辺(PwCコンサルティング)大山さんはシート生産本部の業務改革活動リーダーを務められました。

 大山 「受注前の仕事のやり方」「量産初期トラブル抑制」「設計人員の効率化」「若手設計者育成」という四つの課題がありました。解決のキーワードは「業務のフロントローディング化による品質の早期つくり込み」で、開発プロセスの全工程に責任部門を設定し、役割も明確化してグレーゾーンを極力なくしたプロセスを策定しました。全400工程強のうち受注前は199工程と、かなりの工程がフロントローディングされたプロセスになりました。

 渡辺 活動を振り返り、ポイントの「合意形成」「定着化」「効果の刈り取り」について教えてください。

 大山 合意形成は、説得ではなく、相手の意見を徹底的に聞き、受け止めることが大切だと思います。最初は意見が異なるかなと感じていても、思いや考えの根っこは同じという経験をたくさんしました。そういう方こそ、結果的に強力な味方になってくれたことが多かったですね。

 渡辺 定着化はいかがでしょうか。

 大山 開発プロセスに関する標準を徹底的に整備しました。できるだけ細かく、網羅性の高い標準を作り、この手順で設計すれば必ず製品ができるといったものです。また、ルールや標準は使わなくては意味がないため、設計者と並走しながら慣れてもらい、定着させていきました。「手戻りが減った」と設計者自身が実感することで、それが当たり前になっていきましたね。

 渡辺 効果の刈り取りで、最も効果を感じたことは何ですか。

 大山 設計者の残業時間がかなり減りました。効果を刈り取るための得策はありません。目標達成に向けて逃げずに、言い訳せずに、少しでも前進するという気持ちだけでした。改善に前向きな人材に早くからアプローチして巻き込むことも重要だと考えます。自分事として考えてくれる人材が仲間になり、私も頑張れました。

 渡辺 現在は全社のDX推進を任されていますね。

 大山 DXだからといって過度に構えないようにしています。業務改善活動の発展型と意識しつつ、便利なITツールもどんどん使ってみようというマインドも忘れずに、両方のバランスを取りながら進めています。

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Hondaの自動車開発におけるMBSEの取り組みとRFLP活用事例のご紹介

新規性に応じて使い分け/ホンダ 大久保 宏祐氏

ホンダ 大久保宏祐氏

 Hondaの自動車開発においては、今後重要となる、移動の喜びと賢い電気の利用を実現する「eMaaS」、ソフトウエアを更新して価値を高めるソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)、自動運転や運転支援などへの対応が必要と考えています。このため、既存事業製品の開発効率化と、広がっていくモビリティーシステム開発の課題解決が急務と考えています。

 従来の開発プロセスでは、パワートレインや車体を開発し、制御系を組み合わせて実車で検証していました。しかし、手戻りが多く、労力とコストがかかっていました。このため、開発初期に要求を明確化し、製品開発にブレークダウンするシステムズ・エンジニアリング(SE)の適用を始めています。

 従来の自動車は、アーキテクチャー(設計概念)の変化が小さく、要求の変化もほぼ分かっていました。未知の領域は経験やノウハウでカバーして差分開発していました。しかし、製品が複雑化し、差分開発でカバーするのが難しくなってきました。このため、変更規模が小さい場合はシステム要求を分析し、RFLP(要求・機能・論理・図面)型で設計しています。既存領域は「変化点の影響範囲を明確にしてコンパクトに開発しよう」ということです。

 一方、SDVなどの新規領域は、モデル・ベース・システムズ・エンジニアリング(MBSE)型で開発します。ライフサイクルやコンテキストなどを網羅的に分析し、設計に反映します。開発対象の新規性に応じ、MBSE型とRFLP型を使い分けています。

 RFLP型の一例として、ボンネットフードの開発を紹介します。ボンネットフードには頭部保護性能、強度や剛性といった要求があります。生産技術的に成り立つかという生技性の要求もあります。そこで、3次元CAE(コンピューター利用解析)の結果を人工知能(AI)に学習させるサロゲートモデルを用いて検証したところ、開発期間と工数を削減できることを確認できました。

 今後、さまざまな3次元CAEをサロゲートモデルに置き換えて、開発の効率化を図る計画です。組織をまたいでデータやモデルを効率的に運用したり、開発の“秘伝のタレ”のようなものをAIに学習させたりすることを推し進めます。

ソフトウェアアップデートに伴う自動車を取り巻く環境変化と、実現に向けた課題

SBOMシステムで解決/日立製作所 長野 岳彦氏

日立製作所 長野岳彦氏

 自動車の進化には、ソフトウエアのアップデートによる機能更新や追加が必須です。関連法規への対応、管理の義務化、オープン化、構成管理の複雑化などによる管理コストの高騰も考えられます。

 アップデートによる機能の更新・追加により、セキュリティー対策や不具合修正などの「安心・安全」、環境課題を解決する「環境価値」、ユーザーに最適化されたサービスを提供する「利便性・快適性」、車両価値を向上する「経済価値」の四つを実現できます。

 このためには、自動車にハイ・パフォーマンス・コンピューター(HPC)を搭載してクラウドと接続し、車両側にソフトウエアを配信して高度な処理をする必要があります。そのためにオーバー・ジ・エア(OTA)技術が、進化を支える主要項目になります。

 OTAに関する動向としては、サイバーセキュリティーおよびソフトウエア更新に関する規則が制定されました。また、自動車を取り巻く法規は増加中で、法規順守のための業務も増え続けています。そのため、法規に関連するソフトウエア部品の構成管理が複雑化しています。ハード、ソフト、法規の組み合わせ数が増加しており、多様な依存関係を解決しないと、適切な更新を実現できません。さらに、ソフトウエア情報に対する管理要求も高まっており、SBOM(ソフトウエア部品表)の提供に備える必要があります。自動車業界では現時点で義務化されていませんが、欧米を中心に進むと見られており、日本でも検討されています。

 これらの課題の解決には、SBOMシステムの導入や、高度な構成管理の実現といったアプローチが求められます。標準化されたSBOMのデータフォーマットで、車両構成や型式などの情報と連携することと、高性能なITシステムを活用することにより、ソフトウエアの脆弱(ぜいじゃく)性に対する対応やライセンス管理などを、ミスなく迅速にできるようになります。

 このようなアプローチで課題を解決するには、構想策定から施策具体化、システム開発、運用までに関連する多くのステークホルダーを巻き込んでシステム開発・導入を推進する必要があります。ユーザーとなる多くの部門の皆さまの意見を集約する必要があるため、業務部門が強いリーダーシップで推進するのがいいと思います。

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