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環境・社会の課題解決を起点に受注獲得した印刷会社、「営
業部」の名称をやめた理由

2025.11.26


 この10年で中小企業にも持続可能な開発目標(SDGs)が浸透し、ビジネスに影響を与え始めた。環境や社会の課題解決を起点にして新規受注を獲得した中小企業も登場した。細部まで徹底した活動ほどが実を結んでいるようだ。成功例は決して多くはないが、SDGsが成長への道筋を示している。

大川印刷「ゼロカーボンプリント」 営業やめ提案に転換

 223件。大川印刷(横浜市戸塚区)の2021―23年度の新規受注の件数だ。同社の従業員は約40人。大川哲朗社長は「この規模で、これだけの新しい顧客にめぐり会えるのはありがたい」と感謝する。

 同社は森林や地域社会を守って生産した「FSC」認証紙を使い、再生可能エネルギー100%の電力を活用した「ゼロカーボンプリント」を提供している。顧客にとっても印刷物の製作に伴う環境負荷が減るため、新規受注に結びついている。

 同社は15年9月のSDGs採択前から“社会的印刷会社”を掲げ、本業を通した社会課題解決を目指してきた。SDGsを知った瞬間、「社会課題解決のアイデアを枯渇させない」(大川社長)と直感した。18年には政府主催の「ジャパンSDGsアワード」に輝いた。

 最近では「営業部」の名称をやめた。営業には「モノをたくさん売る、たくさん買わせる」という印象があるからだという。そう思ったきっかけが、ドキュメンタリー映画『グリーン・ライ~エコの嘘~』。著名な教授の「企業からの提案は受け付けるが、営業は受け付けない」という言葉にハッとさせられた。

スタジオで開いた若手経営者の交流会。人と人とのつながりで新しい課題解決が生まれる場に

 「発注部数を増やすと単価が下がってお得」という営業トークが業界の慣習だった。顧客も「せっかくだから」と必要以上に発注するが、納品後に残ったチラシは廃棄されてしまう。大川印刷と顧客は得したようだが、資源のムダを生む。せっかく環境に配慮して印刷しても“エコの嘘”となる。

 今は「ムダな印刷をさせない」(大川社長)と言い切る。依頼があっても本当に必要な印刷か確認し、SNSでの代替を提案することもある。営業から“提案”への転換だ。

 また「『環境にやさしい』だと、どれくらいやさしいのか分からない。だから『正しいことをやろう』と言っている」という。場合によっては印刷を断ることが正義だ。

SDGsへの取り組みの結果

 ペーパーレス化による印刷需要縮小の流れもある。そこで預かった書類をデジタル化するサービスを始めた。デジタル化の電力も再生エネ100%で賄う徹底ぶりだ。

 動画制作の提案も始め、撮影スタジオを開設した。そのスタジオでは、社会課題をテーマにした動画配信を従業員が企画したり、映画上映会を開いたりしている。和菓子作りのワークショップも開催した。「後継者がいない和菓子店の技能継承も社会課題解決」(大川社長)と説明する。スタジオでは経営者の交流会も開いており「人と人がつながり、課題解決が始まる場にしたい。“つながり”から生まれる価値がある」(同)と期待する。

 社内ではウクライナ難民の女性が働いている。母国で印刷を学んだ経験を生かし、レイアウトを担当している。国籍を越えた“つながり”からも新たな価値が創造されそうだ。

愚直に「社会・顧客のため」

 「SDGsはビジネスチャンス」と言われ、SDGsが受注獲得につながるような通説が広がった。大川印刷は新規受注を獲得しているが、大川社長は「社会のため、お客さまのためになることを愚直にやることでお客さまが増える」と話す。「神は細部に宿る」というが、どこまで徹底できるかで、企業への信頼や評価が変わるのだろう。

 逆に「SDGsに賛同」と言いながら、廃棄物や二酸化炭素(CO2)の排出量を増やし続けるような中途半端な状態だと、ビジネスに変化が起きないのだと思う。大川社長は「正しいことをやるのは難しい」と正直に語るが、正しいことを徹底しようと考えることが大切そうだ。そこから新しい提案やビジネスが生まれるのだろう。(おわり。編集委員・松木喬が担当しました)

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日刊工業新聞 2025年9月26日

松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
「SDGsをやっている」は違うんじゃないか、と大川社長が指摘していました。同感です。目標なので「SDGs達成を目指す」「達成に貢献」でしょうか。SDGsに合致する法規制ができ、ビジネスルールも変わったと思います。「SDGsはビジネスチャンス」とだけ言っていても、何も変わらない。理解して事業を変えないといけないのだと思います。

出典:ニュースイッチ Newswitch by 日刊工業新聞社