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「実質賃金」が上がらない!…賃上げ定着、道険し
2025.02.26
内需主導型成長へ労使で最適解を
2025年春季労使交渉(春闘)に向け、大手企業の経営側からは早くも意欲的な賃上げ表明が相次ぐ。労働組合の産業別組織(産別)の要求方針からも、高水準の賃上げが実現した24年の勢いを維持しようとの意気込みがうかがえる。賃上げ「定着」の必要性に関する労使の認識は一致しているが、生活者の実感を伴う形での波及には課題も多い。(編集委員・神崎明子)
「(33年ぶりに5%台の賃上げが実現した)24年の流れを引き継ぐことが重要だ」―。連合の芳野友子会長はこう強調し、23年を物価も賃金も上昇する経済社会への「転換点」、24年を「正念場」、25年を「定着」と表現する。認識は経営側もほぼ同様で、経団連の十倉雅和会長は23年を賃上げの力強いモメンタム(勢い)の「起点」、24年を「加速」、25年を連合と同じ「定着」の年だとする。

賃上げ「定着」の必要性に関する労使の認識は一致している(〔左〕経団連の十倉会長〔右〕連合の芳野会長)
ただ、足元では消費者物価指数の伸びに賃金上昇が追い付かず、実質賃金の低迷が続く。所定内給与は春闘の結果を反映し、32年ぶりの高い伸びを示すものの、物価上昇分を加味した実質賃金は、24年11月(速報値)まで4カ月連続の前年同月比マイナスで推移する。6月に27カ月ぶりにプラスに転じたもの、8月以降は水面下に沈んだままだ。25年春にかけて改善傾向がみられる可能性はあるが、政府による電気・ガス料金の補助金の効果で物価上昇が抑制される側面が強い。
労組側が賃上げを要求する根拠となる消費者物価指数は、日銀の2%目標に落ち着きつつあるものの、食料品など生活に身近な品目の価格が上昇しており、消費者のマインドは上向かない。25年春闘は、まずは物価上昇を上回るベースアップ(ベア)獲得が必須となる。
大手と中小企業で拡大傾向にある賃金水準の格差や、世代間の配分の歪みにどう向き合うかも25年の課題だ。
中小製造業の労働組合を中心に構成するものづくり産業労働組合(JAM)によると、高水準の賃上げが広がったこの2年間で大手と中小の賃金格差は1万円以上に拡大。価格転嫁が実現すれば中小は賃上げ原資を確保でき、格差是正につながるものの、それも道半ばだ。価格交渉に踏み出せない中小企業の実情や、政府指針と異なる独自ルールで交渉に臨む発注側に悩まされる企業の声は、今なお聞かれる。取引慣行の是正に取り組む動きは広がりつつあるが、産業全体への定着には至っていない。
人材獲得のため、賃上げが若手社員に偏重し、教育費や住宅ローンを抱える中高年への配分が薄くなるケースも顕在化している。賃金の上昇カーブが緩やかになり過ぎると将来不安から消費への悪影響も懸念される。自動車総連の金子晃浩会長は「若年層に手厚く配分する傾向が今後も続くのであれば、中高年齢層に充てる原資をしっかり獲得できる賃金要求をしてほしい」と傘下の労組に呼びかける。
企業業績は堅調ながらも、33年ぶりの高水準の賃上げが実現した24年に比べると、先行き不透明感は強い。トランプ米次期政権の保護貿易の行方や中国経済の減速懸念、さらに中東情勢も予断を許さず、世界は不確実性が高まっている。円安に伴う物価の高止まりも懸念材料として残る。
成長型経済への入り口に立った日本。企業は賃上げ「定着」の重要性を認識しつつも、先行きが読めない世界経済への不安を拭い切れない。内需主導の成長を目指し、賃上げや国内投資にどこまで踏み込めるかが今春闘の最大の焦点となりそうで、経営側は労組と熟議を尽くし、最適解を導き出すことが求められる。
日刊工業新聞 2025年01月14日