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親族が期待以上と評する出来栄え「松下幸之助AI」、パナ
ソニックHDが開発で工夫したこと

2025.02.26


 パナソニックホールディングス(HD)とPHP研究所は、パナソニックHD創業者・松下幸之助氏を再現した生成人工知能(AI)を開発した。70代の頃の口調を再現しつつ、質問に対する回答を生成する。読み上げに合わせて映像の表情や口元も動く。親族の松下正幸氏が「期待以上」と評するほどの出来栄えだ。今後、松下幸之助氏の研究やパナグループの社員研修に活用する。

 「まあ、いい人生というのは、単に長生きすることだけではないんであります。(中略)つまり、日々の生活の中で、物心両面にわたる幅広い生産と消費をしながら、絶えずそれらを高めようとすることが大切であります」。松下幸之助氏を再現したAIに「良い人生とは長生きすることでしょうか」と尋ねると、このような答えが返ってくる。

 「幸之助AI」には同氏の発言記録など3400万文字分のテキストデータ、48時間分の音声データを学習させた。データの質や量がそろっていたため再現性を高められたほか、「ドメイン知識による改善も工夫した」と、パナソニックHDDX・CPS本部AIソリューション部の河村岳部長は明かす。

 ドメイン知識による改善とは、松下幸之助氏の研究者らが回答を評価し、内容を磨き上げる作業のこと。この工程により「はやく言うとね」といった独特の口癖や「○○ですわ」という関西弁のイントネーションも取り入れられた。

 工夫した点は他にもある。リアルタイム処理だ。複数の文章で構成する回答を読み上げつつ、映像も動かすと時間がかかる。1文ずつ音声や映像を処理してつなぐ「バケツリレー的な方法」(河村部長)を採用した結果、10秒程度で会話が成り立つようになった。

質問を入力すると、松下幸之助氏の音声や口調を再現したAIが回答する

 松下幸之助氏の研究に活用する場合、発言や考え方の出典を調べる作業を効率化できる。パナグループ若手社員への研修では、本などのテキストで経営理念を学ぶだけでなく、強調したい内容を幸之助AIが読み上げることでより印象付けられるという。

 パナHDはAIの開発や運用で守るべき倫理原則を定めており、幸之助AIもこの原則に則って開発した。「事実と異なる回答は生成されにくいが、回答内容をめぐって松下幸之助氏に関する誤った解釈が生まれる可能性はある」と河村部長は指摘。誤った解釈からデマが生じる恐れがあり、運用体制の整備は欠かせない。

 パナHDは独自の大規模言語モデル(LLM)や家電に搭載するAIの開発も進めている。幸之助AIの技術を応用することで開発加速に期待がかかる。

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日刊工業新聞 2025年01月20日