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「経営者はリスキリングも必要」…中小企業庁事業環境部調
査室室長が語る中小企業の方向性

2025.07.25


 「2025年版中小企業白書・小規模企業白書」は、中小企業の経営者自身が事業環境の変化に的確な対策を打つ「経営力」を分析した。人口減少や産業の空洞化が懸念される地域経済の活性化に向けた中小の役割は大きい。経済産業省・中小企業庁事業環境部の岡田陽調査室室長に、中小の方向性などを聞いた。

 ―今回の白書では経営者個人の特性などの観点から、経営力の重要性を指摘しています。

「異業種の経営者が集まる広域のネットワークに参加し、交流を深めることで、新たなアイデアを得たり、成長意欲が高まったりする傾向が把握できた。業績にも好影響が表れている。社会が目まぐるしく変化し、これまでのやり方が通用しにくくなっており、経営者はリスキリング(学び直し)も必要となる」

 ―中小には売上高の規模に応じて「成長の壁」が存在します。

「売上高の増加に伴って経営課題も変わってくる。白書では成長段階によって組織や人材、投資での有効な打ち手が異なることを示した。例えば売上高10億円未満の企業の場合、事業規模の拡大に向けた課題に、経営者の職務の兼務解消や権限の委譲が挙げられる。経営者がすべてを担う状況から徐々に脱却し、職務を任せられる人材の登用が必要だ」

 「一方、売上高100億円以上の企業ではデジタル変革(DX)など経営の根幹を支える人材が求められる。M&A(合併・買収)や輸出、新規の投資など攻めの戦略の重要性も増す」

 ―中小でもM&Aが経営の選択肢として浸透しつつあります。

「売上高の規模に応じて実施回数が増えている。売上高100億円以上の企業では5回以上のM&Aを経験しているのが6・2%だった。スケールアップに活用し、異業種の買収を通じて多角化戦略を進めるケースも見られる」(おわり)

 【記者の目/成長意欲持ち続ける施策を】

 トランプ米政権の一連の関税政策や米中対立の影響は中小にも及ぶ。大手企業よりも経営体力が限られており、デジタル変革(DX)投資や労働生産性の向上、価格転嫁など多岐にわたる課題を克服するために経営者自身の経営力が試される。中小企業庁には不透明な経営環境でも中小が成長意欲を持ち続ける施策が求められる。(孝志勇輔)

日刊工業新聞 2025年06月23日