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トランプ関税・物価高に直面、中小経営者に問われる実力
2025.07.22
中小企業がトランプ米政権の関税政策や物価高の長期化で経営基盤を揺さぶられる事態に直面している。不透明感が強まる事業環境で問われるのは、的確な判断に基づく経営戦略の実行など経営者自身の実力だ。経済産業省・中小企業庁は「2025年版中小企業白書・小規模企業白書」で、「経営力」の向上を提唱し、望ましい取り組みや要素を分析した。成長に向けた経営者の役割を探る。

中小企業の経営課題(企業規模別)
米国の関税政策に伴う世界経済の動揺や約30年ぶりの金利上昇、人手不足など、中小の収益に影響を及ぼすリスクが次々と顕在化している。今回の白書では企業による従来の取り組みだと現状維持も困難と指摘している。
企業庁が重視するのが、経営者自らが現状や方向性を認識し、適切な対策を講じる力を指す経営力だ。個人の特性と戦略策定、組織・人材の活用の三つの要素を踏まえ、経営力を高める方策などを分析した。経営者の力量が自社の持続的な発展を左右し、「中長期の経営計画を策定するほうが、(事業者の)付加価値額は増加する」(岡田陽調査室室長)という。
中小の雇用の受け皿としての役割は大きく、賃上げの機運を維持できるかどうかのカギを握る。一方、懸念されるのが労働生産性の低さだ。賃上げの余力を高めるには、労働生産性の向上が重要にもかかわらず、中小は伸び悩んでいる。今回の白書では約30年前と比べて、緩やかな低下傾向で推移しているとした。上昇している大手企業とは対照的だ。
中小では深刻な人手不足が続き、デジタル変革(DX)による省人化や積極的な設備投資が欠かせない。製品やサービスの適切な価格設定や、原材料費の上昇などを反映した価格転嫁も課題だ。一連の対策を通じて、労働生産性の改善に結びつける経営力が問われている。
岡田調査室室長は「中小のスケールアップ(規模拡大)が、賃上げや地域経済に良い効果をもたらす」と指摘する。企業庁は白書で、売上高の規模によって変わる「成長の壁」の打破を求めた。具体策として中小でも増加するM&A(合併・買収)や海外展開の推進、イノベーションに向けた研究開発の強化などを挙げた。国際的な経済秩序の揺らぎや米中対立により、サプライチェーン(供給網)の抜本的な見直しなど経営環境が激変することも予想される。中小の経営者にはリスクに備えるとともに、成長への道筋をつける戦略が必要だ。
日刊工業新聞 2025年06月16日