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「SDGs胡蝶蘭」を支える名脇役 ―GHP、低消費電力
で効率よく室温管理

2022.10.24


 選挙の当選祝いや店舗のオープンなど祝い事に欠かせない胡蝶蘭。生産会社のヒカル・オーキッド(和歌山県有田市)は月2万株を生産する。国内でも有数の生産量だが佐原宏社長は「最近は生産を抑えている。胡蝶蘭のつくりかたを一から変えたから」と語る。約40年前から胡蝶蘭の生産を始めた佐原社長はなぜ、今、大きな変化に挑んでいるのか。

不燃ごみゼロへ

 胡蝶蘭は贈答品として人気でブランド価値が高い。一方で長年にわたり関係者を悩ます大きな課題があった。佐原社長は「どんなに美しい胡蝶蘭も必ず咲き終わる。咲き終わった後は廃棄物の塊になってしまう」と語る。

 鉢は陶器やプラスチックでできており、花の向きを整える支柱は鉄製。廃棄に手間がかかり、廃棄専門の業者がいるほどだ。

 「環境への負荷の大きさはいつか問題になる。美しさだけでなく、新しい価値を提供していかなければ」との思いから、約5年前から改善に乗り出した。

 鉢には再生紙、支柱に竹とヒノキを組み合わせた天然素材を使用し、「不燃ごみゼロ」を実現した。資材も全て自社開発し、強度や構造などに工夫を凝らした。

鉢に再生紙、支柱に竹ひごやヒノキを使用し、不燃ごみゼロを実現

 試行錯誤を重ね、2022年1月に新ブランド「フォアス」を立ち上げた。ブランド名には「For One Earthーひとつしかない地球のために」という理念を込めた。「世界で一番地球に優しい胡蝶蘭」がコンセプトだ。

GHPで省エネ

 「地球に優しい」を実現するのは商品だけではない。資材を見直したことで結果的に商品全体が軽量化された。運びやすくなり、輸送時の二酸化炭素の排出削減につながる。

 生産工程の省エネ対応も欠かさない。胡蝶蘭の生育環境は細かい温度管理が求められるため、温室ハウスで生産される。日光を十分に取り込む必要性もあるので、夏ともなればハウス内の温度はいや応なく上昇する。そこで活躍するのがヒートポンプだ。

 冷暖房の切り替えや、温度や湿度を細かく設定できるなど使い勝手が良い。ヒカル・オーキッドも37台のヒートポンプを24時間稼働させて、胡蝶蘭を生育している。

 ただ、当然、空調のエネルギー消費もばく大になり、全てを電気で賄えば、コスト負担も重くなる。

 同社ではガスヒートポンプ(GHP)をヒートポンプ全体の約7割に相当する26台導入している。

 GHPはガスエンジンを使って、室外の圧縮機を駆動させ、空気から熱のくみ上げと放熱を繰り返しながら冷暖房を行う仕組みだ。消費電力の小ささが「売り」でEHP(電気式ヒートポンプエアコン)に比べて、消費電力が数分の1から10分の1である。消費電力が大きくなりがちなハウスの温度管理で最適なエネルギー変換を実現しており、胡蝶蘭づくりを支える名脇役といっても過言ではない。

GHP(写真は室外機)。災害時にも力を発揮する

GHPの特徴の低消費電力がヒカル・オーキッドを救った事例がある

 2018年9月4日に台風21号が和歌山県に大きな被害をもたらした。胡蝶蘭は夏場の冷房なしには生育できない。電力供給が途絶えることは胡蝶蘭の「死」につながる。実際、同社は台風による長期間の大規模停電で胡蝶蘭を廃棄せざるをえない危機に陥った。

 救世主となったのがGHPだ。地域の給電が再開するまでの約2週間、佐原社長が陣頭に立ち、胡蝶蘭を可能な限り守るために社員一丸となった。工事現場で使うような持ち運びできるディーゼル発電機を調達し、その電源でGHPを運転させた。

 「消費電力が小さいGHPだから可能だった。電気に完全に依存した空調設備であれば、かなり大型の発電機を用意しなければならず、果たして調達できたか…。胡蝶蘭は全滅していたかもしれない」と振り返る。

「幸福が飛んでくる」

 ヒカル・オーキッドではブランドの立ち上げに伴い、卸売りだけでなく、顧客への直接販売も始めた。社長自らハンドルを握り、首都圏企業との商談に月に何度も出向く。「向き合って説明して、実際に商品をみていただくと、こちらが思っている以上に私たちの理念に共感していただける」。

ヒカル・オーキッドの佐原宏社長

 国連が推進するSDGsに配慮した商品として企業の関心も高い。「私たちが5年前に新しい胡蝶蘭を構想し始めた頃は(SDGsという言葉を)誰も口にしていなかった」。同社の取り組みに時代が追いつきつつある。

 胡蝶蘭の花言葉は「幸福が飛んでくる」。佐原社長は自社の理念とともに幸せを今日も運ぶ。

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執筆者

日本情報マート

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