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「捨てずおいしく」、食品アップサイクル活況
2024.05.27
ビール大手や流通事業者などで、規格外で廃棄されていた農産物をアップサイクルし商品化する動きが活発になってきた。キリンビールはナシ「浜なし」の規格外品を使った缶チューハイを5月7日に発売する。イオンはサトイモで調理に不向きだった「親芋」を使ったポタージュなどを発売した。日本生活協同組合連合会(生協連)も規格外の果物などを原材料にした商品を拡充している。フードロス削減に加え付加価値につなげる取り組みとなる。(編集委員・井上雅太郎)
「横浜市内で生産される浜なしから毎年19トンほどが廃棄される。これを活用することで農家の課題解決につなげる」。キリンビールの今村恵三執行役員は「氷結mottainaiプロジェクト」開始の意義を説明する。味に問題はないが規格外として廃棄される果物は多い。これを活用する第1弾でRTD(フタを開けてそのまま飲めるアルコール飲料)「氷結mottainai浜なし」を発売する。
イオンが発売した「冷製親里芋のポタージュ」
販売数量は18万ケースで、年間廃棄量の4割に当たる約2万2000個分のフードロス削減が可能という。また、商品1本当たり1円を生産者に寄付する。年内にも第2弾を計画し、対象となる果物の探索を進めている。
「『もったいないをおいしく!』をコンセプトに商品開発」―。イオンは国内有数の産地である愛媛県産サトイモの親芋を原材料にした「冷製親里芋のポタージュ」と「親里芋と麹のだし粥」を発売した。一般に流通しているサトイモは「子芋」「孫芋」の部分で、親芋は固くて調理に不向きのため収穫時にほとんどが廃棄されている。そこで生産者の協力により風味が強く柔らかい部分を選別。繊維質を除去し、微細化するなどで“ねっとり感”とジャガイモのような歯応えを併せ持つ親芋の特徴を生かした商品に仕上げた。
また、生協連は2023年秋に規格外のバナナを使った「完熟バナナのたまごパン」と、ドライフルーツ製造時に残るシロップを活用した「もっちりジューシー!フルーツゼリー」を発売した。食品ロス削減に貢献できる商品では同年春の3品と合わせて5品のラインアップになった。「30年までに食品廃棄物を18年比で50%削減する目標の一環」(生協連)としている。
規格外などで廃棄される農産物を活用し商品化するのは簡単ではない。品質や味わいは一般商品以上の水準が求められるほか、安定供給するための原材料を確保するのが課題となる。しかし、これらをクリアできた商品は、通常の商品に新たな環境価値を上乗せすることができる。こうした取り組みが企業の環境に対する積極姿勢のイメージにもつながるだけに、今後も企業による廃棄農産物のアップサイクルの事例は拡大するだろう。
日刊工業新聞 2024年04月22日